- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書はまさにその未曾有の時期に社長に就任し、改革の指揮をとった川村隆氏と経営陣の5年間を追ったドキュメンタリーである。興味深い点は、経営陣の刷新がいわゆる「若返り」ではないことである。
この改革劇は、当時69歳を迎え、なかば経営の第一線から退いた(と思われていた)「異端児」たちによって実現した。著者はこのような危機時に、しがらみから解き放たれた「達観」こそが本質的な改革を実現できた理由ではないかと示唆している。企業経営や人事采配の本質に気づかせてくれる内容となっている。
著者:小板橋 太郎
日本経済新聞社 企業報道部 デスク。1991年立教大学文学部史学科卒、日本経済新聞社入社。整理部、社会部、産業部記者、日経ビジネス編集委員などを経て現在、日経新聞企業報道部デスク。記者時代は自動車、ゲーム、エネルギー、電機、通信などの業界を担当。趣味は古地図を見ながら散歩すること。1966年生まれ。東京都出身。
出版:日経BP社
【第一章】六十九歳の再登板
【第二章】「不沈艦」の黄昏
【第三章】裸になった経営陣
【第四章】「御三家」の換骨奪胎
【第五章】豪腕、中西宏明の凱旋
【第六章】インフラ輸出の牽引車
【第七章】グローバル化は隗より始めよ
【第八章】日立の次代を担う者

一橋大学大学院商学研究科にて博士号を取得後、2002年より横浜市立大学商学部専任講師に就任。2004年より一橋大学大学院国際企業戦略研究科(ICS)助教授を経て、2007年より現職。(>>推薦書籍一覧)
著者の川村氏が相談役に就いて間もない頃、経済産業省で同氏の講演を聞いたことがある。電機業界のアナリストが「日立の経営改革は、我々が10年位前に提案したものであり、目新しさはない」とコメントしたところ、川村氏は大きな痛みを伴う改革に強い抵抗があること、そして「出戻り組」である経営陣がいかに決断し、改革を実行したかをとうとうと述べられたのが印象に残っている。本書は、河村改革の一端を知るうえで好著である。
推薦読者:
規模は問わず、企業変革に悩む経営者、および将来の幹部候補であるミドルに読んで欲しい。変革の必要性に迫られている企業はもちろんのことだが、業績が必ずしも悪くない企業も「平時の改革」を実行するために読んでいただきたい。
要約ダイジェスト
69歳の再登板
2009年2月3日。月曜朝の東京証券取引所は混乱に陥っていた。日立株には大口の売り注文が殺到し、取引開始から1時間たっても取引価格が確定しなかったのだ。日立はこの前週に、2009年3月期の連結業績見通しを下方修正し、最終損益は7,000億円の赤字と発表していた。
事態はさらに悪化し、最終赤字は7,873億円に達した。翌3月、日立は緊急記者会見を開き、現会長の庄山は相談役、現社長の古川が副会長に就任する人事を発表する。中央には、見慣れない人物が座っていた。4月1日から執行役会長兼社長に就任する川村隆である。
電撃的な社長交代を翌日朝刊の記事にしなければならない記者たちは、一斉にインタ-ネットで過去記事を検索したという。
川村はその時69歳、日立工場長を3年務めてから順調に出世し、1999年に副社長に昇格したが、2003年に副社長を退任した後はグループ会社の会長職を歴任し、