『スティーブ・ジョブズⅠ』
(ウォルター・アイザックソン/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 全世界に惜しまれつつ、2011年に他界したスティーブ・ジョブズの評伝。ジョブズ本人の生い立ちやアップル創設の経緯、iPhone、iPad誕生から引退に至るまでが描かれた上・下巻の大作である。本人の全面的な取材協力のうえ編まれているが、決してジョブズ礼賛ではなく、彼のエピソードが淡々と、余すところなく描かれている。

 現在アップル社CEOを務めるティム・クックをはじめ、ライバルだったビル・ゲイツ、共同創業者スティーブ・ウォズニアック、三顧の礼でアップルにCEOとして迎えられ、後にジョブズと激しく対立するジョン・スカリーなど、関係者の発言やインタビューに裏付けられた決定版ともいえる内容で、ジョブズ亡き後、イノベーティブな企業評価にも陰りが見えつつある今なお、感じるものがある一冊となっている。


著者:ウォルター・アイザックソン
 1952年生まれ。ハーバード大学で歴史と文学の学位を取得後、オックスフォード大学に進んで哲学、政治学、経済学の修士号を取得。英国『サンデータイムズ』紙、米国『TIME』誌編集長を経て、2001年にCNNのCEOに就任。ジャーナリストであるとともに伝記作家でもある。2003年よりアスペン研究所理事長。

翻訳:井口 耕二
1959年、福岡県に生まれる。東京大学工学部卒業。米国オハイオ州立大学大学院修士課程修了。大手石油会社勤務を経て、1998年に技術・実務翻訳者として独立。翻訳活動のかたわら、プロ翻訳者の情報交換サイト「翻訳フォーラム」を友人と共同主宰する。一般社団法人日本翻訳連盟常務理事。
出版:講談社


はじめに 本書が生まれた経緯
第1章 子ども時代 捨てられて、選ばれる
第2章 おかしなふたり ふたりのスティーブ
第3章 ドロップアウト ターンオン、チューンイン
第4章 アタリとインド 禅とゲームデザインというアート
第5章 アップル1 ターンオン、ブートアップ、ジャックイン
第6章 アップル2 ニューエイジの夜明け
第7章 クリスアンとリサ 捨てられた過去を持つ男
第8章 ゼロックスとリサ グラフィカルユーザインターフェース
第9章 株式公開 富と名声を手にする
第10章 マック誕生 革命を起こしたいと君は言う……
第11章 現実歪曲フィールド 自分のルールでプレイする
第12章 デザイン 真のアーティストはシンプルに
第13章 マックの開発力 旅こそが報い
第14章 スカリー登場 ペプシチャレンジ
第15章 発売 宇宙に衝撃を与える
第16章 ゲイツとジョブズ 軌道が絡み合うとき
第17章 イカロス のぼりつめれば墜ちるだけ
第18章 ネクスト プロメテウスの解放
第19章 ピクサー テクノロジー・ミーツ・アート
第20章 レギュラー・ガイ 凡夫を取り巻く人間模様
第21章 『トイ・ストーリー』 バズとウッディの救出作戦
推薦者コメント
matsuo iwata岩田松雄<株式会社リーダーシップ コンサルティング 代表取締役社長>
株式会社アトラス、株式会社イオンフォレストでの経営職を歴任後、2009年、スターバックスコーヒージャパンの代表取締役CEOに就任。退任後、株式会社リーダーシップコンサルティングを設立、代表を務める。(>>推薦書籍一覧

 面白く時間を惜しんで一気に読んでしまった。Ⅰではジョブズの出生からピクサーの上場までが書かれ、仕事と家庭(家族)の話の2本立てのストーリーとなっている。周りの人間は、目的のためなら事実をねじ曲げる彼の熱意を「現実歪曲フィールド」と呼び、分かっていながら、その魅力に取り憑かれ、不可能を可能にしてしまう。元恋人は「自己愛性人格障害」で人に共感する能力が欠けていたと証言する。それでも彼は未来を創った。

 Ⅱではアップルへの復帰から最後の闘病生活まで。「僕は、いつまでも続く会社を作ることに情熱を燃やしてきた。すごい製品を作りたいと社員が猛烈に頑張る会社を…。顧客が今後、なにを望むようになるのか、それを顧客本人よりも早くつかむのが僕らの仕事なんだ。」ページを読み進めるのがもったいない程だ。(岩田松雄)

ichiro asahina square朝比奈 一郎<青山社中株式会社 筆頭代表CEO/中央大学大学院(公共政策研究科)客員教授>
 1997年、通商産業省(現・経済産業省)入省。2001年にハーバード大行政大学院において修士号を取得。2003年に「新しい霞ヶ関を創る若手の会(プロジェクトK)」を立ち上げ、代表に就任。2010年より現職。(>>推薦書籍一覧

アップルの創業者であり、中興の祖であるスティーブ・ジョブズは、現代における成功したビジネスマン・経営者の典型例 として言及されることが多い。しかし、成功を目指すビジネスマンの登竜門とも言うべきMBA等で教えられる理論と、「成功者」たる彼の言動が必ずしも一致しないということもまた、大変に興味深い事実である。

 即ち、ジョブズは、人格破綻者とも言われ(部下を罵倒)、株主を大切にせず(儲かっても配当せず)、マーケティングを重視しないのに(FGI等を軽視)、成功を収めて行った。個人的には、ジョブズが「理性による決断」を忌み嫌い、むしろ、本能や直感を重視するに至るプロセス(カウンターカルチャーや禅への傾倒。ソニーの影響など。)を非常に興味深く読んだ。

 本人の「公認」の下、人生の汚点も含めて、ジョブズや知人からの一次的な聞き取りを中心としている点で、類書(他のジョブズ関連本)の追随を許さない圧倒的な出来であり、正直、本書を読む前に何冊も読んだジョブズ関連本が非常に色あせて見えた。

 私がかねてより主張している「指導者」ではなく「始動者」としてのリーダーやそのリーダーシップを考察するにあたり、彼ほど興味深い題材はない。単なるスキルアップではなく、人生や社会を大局的にとらえることで「不毛な忙しさ」(いわゆるactive non action状態)から抜け出したいと夢想する中堅・若手の方々、或いは、人生における「リスクを取らないリスク」を取りたくないと考えている方々にお勧めの一冊(上下で二冊)である。(朝比奈一郎)

Check Point

  • ジョブズの「現実歪曲フィールド」の根底には、世間的なルールに従う必要はないという彼の個性があった。また彼の特異な言動は他人の感情を理解したうえで行っていた。
  • マッキントッシュの開発にあたっては、顧客に対する要望を満たすより「偉大」な製品をつくることを重視し、マックチームを特殊部隊に喩えチームを鼓舞し団結力を高めた。
  • マッキントッシュは、CM、パブリシティ記事、さらに製品発表会の3つを最大限利用して熱狂的なファンを生むことに成功し、この手法は後のアップル社製品でも踏襲された。

要約ダイジェスト

現実歪曲フィールド

 エンジニアのアンディ・ハーツフェルドがマッキントッシュ開発チームに参加したとき、ソフトウェアデザイナーのバド・トリブルから「やらなければならない仕事が大量にある」と教えられた。ジョブズが設定した期限は1982年1月で、1年もなかった。

 ハーツフェルドは「それは不可能だ」と抗議したが、トリブルは、「この状況は『スター・トレック』の言葉が一番よく表現できると思う。スティーブには、現実歪曲フィールドがあるんだ」と言った。最初はそんな大げさなと思ったハーツフェルドも、2週間ほどでそれが本当だと思い知る。

 スティーブは自分自身さえだましてしまう。そうして自ら信じ、血肉としているからこそ、他の人たちを自分のビジョンに引きずり込めるのだ。大なり小なり現実をねじ曲げる人は、

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