- 本書の概要
- 著者プロフィール
「物々交換の不便さから貨幣が生まれた」「貨幣の条件は稀少性、持ち運び容易性、保存可能性…」などの貨幣の歴史は誰しも耳にしたことがあるのではないだろうか。本書では、それは誤った歴史認識であり、「マネー」の本質すら見誤っているとの指摘を端緒に、貨幣経済とマネーの歴史をひも解き、現代のマネーをより良いものへ進化させる道筋を提起する。
マネーの本質は「モノ」ではなく「『信用』を軸とした社会的な技術」であるという主張を軸に、原始的な生活を営む島から始まり、リーマン・ショックに至るまで、ケインズ、ロック、ジョン・ローなど先人の思想や学説を織り交ぜながらその歴史が明解に示されている。
その過程において、マネーが「発明」されてから2500年経っているというが、恐慌や市場原理主義への懐疑など、歴史は繰り返すということを改めて感じさせられ、資本主義やマネー社会への視野を広げてくれる骨太な一冊である。著者は世界銀行勤務を経て、現在はロンドンの資産運用会社でマクロエコノミスト、ストラテジストとして活躍する人物。
オックスフォード大学で古典学、開発経済学を、ジョンズ・ホプキンス大学で国際関係学を学ぶ。オックスフォード大学にて経済学の博士号を取得。世界銀行に10年にわたって勤務し、旧ユーゴスラビア諸国の紛争後復興支援に関わる。現在、ロンドンの資産運用会社ライオントラスト・アセット・マネジメントでマクロエコノミスト、ストラテジストとして活躍。『21世紀の貨幣論』が初の著書となる。
翻訳:遠藤 真美
出版:東洋経済新報社
マネーとは何か
マネー前夜
エーゲ文明の発明
マネーの支配者はだれか?
マネー権力の誕生
「吸血イカ」の自然史―「銀行」の発明
マネーの大和解
ロック氏の経済的帰結―マネーの神格化
鏡の国のマネー
マネー懐疑派の戦略―スパルタ式とソビエト式
王子のいない『ハムレット』―マネーを忘れた経済学
正統と異端の貨幣観
バッタを蜂に変える―クレジット市場の肥大化
大胆な安全策
マネーと正面から向き合う
Check Point
- 準的な貨幣論ではマネーは「モノ」、つまり、交換の手段とされるが、その本質は、単位・会計システム・譲渡性という三つの基本要素から成る、取引清算システムである。
- 古代中国ではマネーは統治の道具だという考えが主権者側から生まれた。君主の役割は、貨幣の流通量を調節し、富と所得を再分配して経済を発展させることであった。
- ヨーロッパでは主権者によるマネーの支配を緩めるという考えが民間から生まれた。特に、中世の商人階級は国際的な相互信頼のマネーシステムに発達させ、後に銀行業として発達した。
要約ダイジェスト
マネーとは何か?
石貨の島、ヤップ
20世紀初め、太平洋に浮かぶヤップ島は、地球上にある有人島の中でも僻地にあり、外界と隔絶した小島だった。ヤップ島には経済があることはあったが、発展していたとはとても言えない。市場で取引されていた商品は三つだけだった。
魚、ヤシの実、そして唯一のぜいたく品であるナマコだ。交換の対象となる商品は他にこれといってなかった。こうした原初的な状況にあったので、この島を訪れた人間は、単純な物々交換よりも進んだものが見つかるとは予想していなかった。
ところが、ヤップ島には高度に発達したマネーシステムがあった。ヤップ島の硬貨は「フェイ」と呼ばれ、大きく、堅い石でできた車輪のような形をしている。大きさは