- 本書の概要
- 著者プロフィール
彼は「人々は不完全な知識のもとで慣習に従って行動する」と考え、「人間は合理的に行動する」と考える主流の経済学者から無視されてきたが、20世紀の最後の四半世紀は、ハイエクの思想が正しかったことを証明した。近年急速に再評価が進むハイエクの思想を紹介するとともに、彼の思想が現代の諸問題に与える示唆を明らかにする一冊。
1953年京都府生まれ。1978年東京大学経済学部を卒業後、NHKに入社。報道番組の制作に携わり、1993年に退社。1997年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程を中退し、同年国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)助教授。2000年GLOCOM教授、2001年経済産業研究所上席研究員を経て、上武大学大学院経営管理研究科教授。学術博士(慶應義塾大学)。日本を代表する人気ブロガーとして積極的な言論活動を展開。
第2章 ハイエク対ケインズ
第3章 社会主義との闘い
第4章 自律分散の思想
第5章 合理主義への反逆
第6章 自由主義の経済政策
第7章 自生的秩序の進化
第8章 自由な社会のルール
第9章 21世紀のハイエク

2003年、Google米国本社副社長 兼Google Japan 代表取締役社長に就任。2009年よりGoogle Japan名誉会長職を務めた後、2011年より村上憲郎事務所を設立し代表を務める。(>>推薦書籍一覧)
性懲りも無く、またもや国家主義に回帰しつつあるやにも見える昨今の日本。そういう時こそ見直されるべき真の自由主義思想としてのハイエク思想。その全貌を経済学・法律学・政治学と言った社会科学の配置図の中に位置づける全体視座を持って、僅か200ページの新書で、簡潔かつバランス良く紹介する名著。
推奨読者:
経済社会の全体像を俯瞰する基本視座を構築するための出発点を求めている人。インターネットの思想的根拠を得たい人。(村上憲郎)
Check Point
- ハイエクにとって、市場経済は自立的に働くシステムであり、戦後主流となったケインズ理論のいう政府が市場を操ることは幻想でしかなかった。
- ハイエクのいう自由な社会の最大の特徴は、無知の人々に間違える自由とそれを修正する自由を与える事によって、少しでも社会をましな状態に保つことである。
- 1974年にハイエクはノーベル経済学賞を受賞、経済学の主流となった。彼の自由主義的政策はサッチャーの「小さな政府」、レーガノミクス、小泉政権の「構造改革」にも引き継がれた。
要約ダイジェスト
ハイエク対ケインズ
1929年の世界恐慌は、自由な市場と自由貿易が富をもたらすと論じた古典的な経済学に大きな試練を与えた。10年以上にわたる不景気と高い失業率は、市場メカニズムの調整機能に大きな疑問を抱かせ、経済学にとっても危機の時代となっていた。ハイエクが渡英したのは、不況が吹き荒れる1931年のことだった。
大恐慌が市場メカニズムへの信頼を失わせた状況で、「自由放任の終焉」を宣言したケインズの登場は歴史の必然だった。しかし彼の思想は、従来の経済学を修正し、政府が介入する根拠を見出す結論を最初から想定して理論を組み立てたので、その内容は論理的にかなり無理があった。
ハイエクは、ケインズの「貨幣論」が論理的な矛盾を含んでいると批判した。ケインズの主張は、「不況の原因は過小消費なので、金利を引き下げれば貯蓄が減り、消費が増えて経済は回復する」というものだ。それに対し、ハイエクは「消費や貯蓄などの変数は数千万人の行動の集計に過ぎず、因果関係を証明することはできない」と批判した。政治力にも優れていたケインズと、学者肌であったハイエクの違いをよく表した論争であった。
ケインズの主著「雇用、利子及び貨幣の一般理論」は、学術書というよりは政策提言、政治的なパンフレットとしての性格が強い。大蔵官僚でもあったケインズは、懸命なエリートが社会を導くべきで、それは不可能ではないという信念を持っていた。
一方、ハイエクにとって市場経済は自立的に働くシステムであり、政府が市場を操ることは幻想でしかなかった。結局ハイエクは