- 本書の概要
- 著者プロフィール
タイトルの「グローバリゼーション・パラドクス」(グローバル化の逆説)は、「世界経済の政治的トリレンマ」というアイデアがベースとなっている。これは(1)グローバリゼーション(economic globalization)、(2)国家主権(national determination)、(3)民主主義(democracy)は、三つを同時に達成することができず、どれか一つは犠牲になるという説である。
この三つのなかで犠牲にすべきは、グローバリゼーションではないか、というのが本書の主張だが、そこに至るまでの資本主義の本質を踏まえた論考は、グローバリゼーション推進派/反対派に問わず、大いに参考になるだろう。著者は国際経済・政治経済の世界的な権威ダニ・ロドリック教授。政治・経済のグローバル化を巡る現状を丁寧に解きほぐし、多くの示唆を与えてくれる良書である。
1957年、トルコ・イスタンブールに生まれる。米ハーバード大学を卒業後、プリンストン大学でMPA、Ph.D.をそれぞれ取得。ハーバード大学行政大学院教授などを経て、現在、プリンストン高等研究所(IAS School of Social Science)教授。専門は国際経済学、経済成長論、政治経済学。
翻訳:柴山桂太(シバヤマ・ケイタ)
1974年生まれ。京都大学経済学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程退学。現在、滋賀大学経済学部准教授。専門は政治経済思想。著書・訳書多数。
翻訳:大川良文(オオカワ・ヨシフミ)
1971年生まれ。神戸大学経済学部卒業。神戸大学大学院経済学研究科国際経済博士課程修了。現在、滋賀大学経済学部准教授。専門は国際経済学。
第一章 市場と国家について
第二章 第一次グローバリゼーションの興隆と衰退
第三章 なぜ自由貿易論は理解されないのか?
第四章 ブレトンウッズ体制、GATT、そしてWTO
第五章 金融のグローバリゼーションという愚行
第六章 金融の森のハリネズミと狐
第七章 豊かな世界の貧しい国々
第八章 熱帯地域の貿易原理主義
第九章 世界経済の政治的トリレンマ
第十章 グローバル・ガバナンスは実現できるのか? 望ましいのか?
第十一章 資本主義3.0をデザインする
第十二章 健全なグローバリゼーション
終章 大人たちへのお休み前のおとぎ話
要約ダイジェスト
グローバリゼーションの物語を練り直す
経済のグローバル化は、先進国にはかつてないほどの繁栄をもたらし、中国などのアジア諸国にいる数億人の貧しい労働者たちには恩恵をもたらしてきたが、実はグローバル経済を支える確固とした柱は存在しない。
言い換えると、グローバル経済には、それを統治する制度に乏しいのだ。政府の力が一国内に限定されているのに対し、市場経済は世界規模で広がっていることが、グローバリゼーションの欠点につながっている。
1945年からの30年間、世界経済はブレトンウッズ体制の下にあった。これは緩やかな多国間主義であり、各国政府は世界貿易の回復と成長を実現しながら、国内の社会問題や雇用問題に専念することができた。なかでも発展途上国は、国外からの制約をあまり受けることなく、独自の成長戦略を実行することができたのだ。
しかし、国境を越えた資本の動きが増大と、1970年代のオイルショックで、その通貨制度は持続不可能となり、ブレトンウッズ体制はハイパーグローバリゼーション(世界経済の自由化と統合の深化)実現という目標に取って代わられることになった。
その結果は失望の連続であった。金融のグローバリゼーションは