- 本書の概要
- 著者プロフィール
一方その結果、徴候はあるものの発達障害という診断には至らない「グレーゾーン」とされる人々も増加傾向にあるという。成人でも子どもでも相当数存在すると考えられているが、実はグレーゾーンのほうが現実の世界で生きづらさを感じやすいという。障害レベルでないため、特別な配慮や支援がなされない場合が多いからだ。
本書では ADHD、ASD、社会的コミュニケーション障害、学習障害、HSP(Highly Sensitive Person)など8タイプの発達障害とそのグレーゾーンについて解説。生きづらさを解消するための対策についても、医学的知識と豊富な臨床経験をもとに提唱している。著者は長年発達障害治療の最前線で活躍する精神科医。
1960年、香川県生まれ。精神科医、作家。医学博士。東京大学文学部哲学科中退。京都大学医学部卒。京都大学大学院医学研究科修了。長年、京都医療少年院に勤務した後、岡田クリニック開業。現在、岡田クリニック院長。日本心理教育センター顧問。パーソナリティ障害、発達障害治療の最前線に立ち、現代人の心の問題に向かい合っている。著書に『アスペルガー症候群』(幻冬舎)、『愛着障害』(光文社)、『母という病』(ポプラ社)、『パーソナリティ障害』(PHP研究所)などベストセラー多数。小説家・小笠原慧としても活動し、作品に横溝正史賞を受賞した『DZ』、『風の音が聞こえませんか』(ともに角川文庫)などがある。
第1章 「グレーゾーン」は症状が軽いから問題ない?
第2章 同じ行動を繰り返す人たち こだわり症・執着症
第3章 空気が読めない人たち 社会的コミュニケーション障害
第4章 イメージできない人たち ASDタイプと文系脳タイプ
第5章 共感するのが苦手な人たち 理系脳タイプとSタイプ
第6章 ひといちばい過敏な人たち HSPと不安型愛着スタイル
第7章 生活が混乱しやすい人たち ADHDと疑似ADHD
第8章 動きがぎこちない人たち 発達性協調運動障害
第9章 勉強が苦手な人たち 学習障害と境界知能
第10章 グレーゾーンで大切なのは「診断」よりも「特性」への理解
主な参考文献
要約ダイジェスト
発達障害未満なのになぜ生きづらいのか
「発達障害」という言葉が広く知られるようになり、多くの人が、自分も当てはまるのではないかと感じて、医療機関や相談機関を訪れるケースが非常に増えている。発達障害ではと疑って、診察にやってくる場合にも、大きく2つのケースがある。
一つは親や教師、パートナーや上司といったまわりの人が受診をすすめるというケースだ。本人はまだ自覚がなく、親に連れられてやってきた子どもや、パートナーや上司から受診するように言われたという大人のケースも最近多い。
一方で、さらに増加が目立つのは、自ら「発達障害」ではないかと疑って、診察や相談にやってくるケースだ。そうしたケースに共通する特徴は、長年生きづらさや生きることへの違和感のようなものを感じていて、もしその原因が「発達障害」によるものなら、一歩前に進めるのではないかという期待も抱いているということだ。
どちらの場合も、きちんとした診断を行うには、丁寧な問診と診察、発達検査などが必要になる。ところが、簡単な問診とチェックリストによるスクリーニング検査だけで診断が下され、薬まで出されてしまうというケースも珍しくない。
とくに「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」と診断される場合には、そういうことが起きやすい。不注意や衝動性といった ADHDの症状は、ADHDでなくとも、さまざまな要因で生じるため、スクリーニング検査だけで診断すると、半分くらいが誤診となってしまう。
その一方で、長時間かけて発達検査も受けてみたものの、結局、障害というほどではなく、「グレーゾーン」、つまり境界域だと判定されることもある。では、グレーゾーンと判定された場合、軽く受け止めればいいものなのだろうか。実際に数多くのケースに向き合ってきた経験から言うと、まったくそうではない。
グレーゾーンの人は、障害レベルの人と比べて生きづらさが弱まるどころか、ときには、より深刻な困難を抱えやすいということだ。障害レベルでないため、