- 本書の概要
- 著者プロフィール
そこで本書では、歴史上の巨人の主張を現代人の悩みに即して読み解いていく。マルクスやアダム・スミスなどが、現代のビジネスパーソンたちと対話をしながら自身の思想を展開するというストーリー仕立てとなっており、経済学特有の難解な言い回しは少なく、対話構成のため読み進めやすいのも特徴だ。
本書に登場する対話の舞台、「UNIVERSITY of CREATIVITY」(創造性の大学)は実際に赤坂に存在する学びの場でもある。著者はNHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/東京藝術大学客員教授。働きがいや労働環境、経済、デジタル化、キャリアなどに関して何らかの課題や悩みを感じている方はぜひご一読いただきたい。
NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/東京藝術大学客員教授。1962年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ソクラテスの人事」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」「ニッポンのジレンマ」「人間ってナンだ?超AI入門」ほか数多くの異色教養エンターテインメント、ドキュメントを企画開発。現在も「欲望の資本主義」「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズの他、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」などプロデュースし続ける。2020年~22年 Univesity of Creativity 「経済ファーメント」にてカタリストを務めた。
著書『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『すべての仕事は「肯定」から始まる』(大和書房)『結論は出さなくていい』(光文社新書)、制作班との共著に『欲望の資本主義1~6』(東洋経済新報社)『欲望の民主主義』(光文社新書)『マルクス・ガブリエル 欲望の時代を哲学する/自由と闘争のパラドックスを越えて/危機の時代を語る/新時代に生きる「道徳哲学」』『AI以後~変貌するテクノロジーの危機と希望』(NHK出版新書)『世界サブカルチャー史 欲望の系譜 アメリカ70-90s「超大国」の憂鬱』(祥伝社)ほか。
第1章 マルクス先生、今働くって、何ですか?──労働編
第2章 アダム・スミス先生と社会善のユウウツ──倫理と経済編
第3章 ケインズ先生、データ、AIは光ですか?──デジタルと仕事編
第4章 ヴェブレン先生、毎日疲れるのも資本主義のせいですか?──心編
第5章 斎藤幸平先生、やっぱり資本主義じゃダメですか?
おわりに
参考文献
要約ダイジェスト
マルクス先生、今働くって、何ですか?
ここは時空を超えた、超教室。古代ギリシャの広場、アゴラのような学びの場に、歴史上の巨人や現存の世界の知性、様々な人々が出入り自由でやってくる。ここで「そもそも働くって何だろう?」という質問に答えたのは、『資本論』の著者カール・マルクスだ。
巷では、多くの人々が自分の仕事に対して、何かしらの不満、違和感を抱いているようだ。『ブルシット・ジョブ』(クソどうでもいい仕事)などという言葉が話題になって、何の意味も見出せない“空疎な労働”が増え続けている。
その背景にあるのは、資本主義のシステムの下で、企業間の競争の激化による効率化を求める過度な分業の論理が、この第三次産業主体のポスト産業資本主義=サービス業やソフト開発主体の仕事にまで及んでいるからではないか。
分業は、時に人間活動の疎外形態を生み出す危険性を持っている。本来、労働それ自体は人間にとって、生きるエネルギーを生み出すことに直結するような、豊かな営みであるはずだ。
労働とは、人間が自分で考える構想の作業、すなわち“精神的労働”と、実際に自らの身体を動かして行う実行の作業、すなわち“肉体的労働”が統一されたものだった。しかし、商品を生むプロセスが細分化していく、あるいは会社組織が強固になっていくにつれて、資本家が構想を独占し、労働者が実行のみを担うことになっている。
社会の中での日々の労働という行為の意味を、自分自身の人生の中に位置付けてみよう。その時避けなければならないのは、“社会”を抽象体と捉え、個人と対立させてしまうことだ。個人の中に生まれる感覚、問題意識と社会の課題の間には連続性があるのだ。
その意味では、“社会”を“個人”と切り離し、抽象化させて考えてしまうのも、ある種の“転倒”が起きている。考え方が“逆立ち”しているのだ。
今流行の“ウェル・ビーイング”なども注意すべき概念かもしれない。今まで感覚として心の領域で体感してきたものを、頭で先に考えてしまい、