- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書では、『老子』を「自分の身を安全圏に置きながら、物事を成し遂げるための理論と技術」を説く謀略術体系書として解説。『老子』では、個人の意志と行動のみで現実を変えていく考え方を否定し、人間の感情力学を踏まえて戦略的に「天下を取る」方法を教えてくれる。一読すれば、一般的な『老子』のイメージとの違いに驚かされるはずだ。
著者は漢文学を専門俊、古典や名著を題材にとって独自の視点で研究・執筆活動を続ける作家。東洋哲学や『孫氏』などの古典に興味関心がある方、単なる古典の入門解説書ではなく、時代を経ても変わらない人間心理や教訓、物事を成し遂げる指針やヒントを古典から得たい方などはぜひご一読いただきたい。
作家。横浜市生まれ。上智大学大学院文学研究科博士前期課程修了。国文学専攻。専門は漢文学。古典や名著を題材にとり、独自の視点で研究・執筆活動を続ける。近年の関心は、謀略術、処世術、弁論術や古典に含まれる自己啓発性について。著書に『鬼谷子』(草思社文庫)、『どんな人も思い通りに動かせる アリストテレス 無敵の「弁論術」』(朝日新聞出版)、『言葉を「武器」にする技術 ローマの賢者キケローが教える説得術』(文響社)、『哲学ch』(柏書房)など多数。
2章 「道」は成功者を必ず殺す
3章 『老子』とは「道」を利用した戦略である
4章 「足るを知る」本当の意味
5章 「王」はいかに人を動かすべきか
6章 「隠君子」という生き方
要約ダイジェスト
誤解され続ける「老子」のメッセージ
今の日本で『老子』が一般向けに紹介される際には、決まって「『道』による永遠の流れに身を任せて生きよ」と説く、ロハスで平和で深淵な哲学として紹介される。
だがこのイメージは誤解である。『老子』が説くのは、「いかに自分の身を安全圏に置きながら、物事を成し遂げるかの理論と技術」。人間社会を生き抜くための処世術であり、謀略術である。
『老子』の思想は、「本人の意志と行動さえあれば、現実はどうとでも変えられる」(行動原理主義)という考え方を徹底的に粉砕することを目的とする。行動原理主義は、人間の行動ではどうにもならない「力」を認めないか、その「力」を非常に軽く見積もる。これこそ『老子』の時代において王や諸侯、知識人たちが信じた考え方だった。
各国の王や知識人は、富や領土へのあくなき欲望の中で戦争や権力闘争を繰り返すうち、「成功」のためには、「天」といった人間を超えたものに従うよりも、行動を起こし、競争の世界に飛び込んで勝利するほうがはるかにものを言うように感じていた。
そんな世の中で密かに思索を深め、当時の行動原理主義に痛烈なカウンターを放ったのが、おそらく複数であろう『老子』の著者たちだ。彼らは、むしろ天の持つ力を積極的に認め、その力が現実世界に及ぼす影響を観察し、その中で「成功」するための謀略術を練り上げた。
『老子』が生まれるきっかけを作った「最初の老子」がどういう人物だったのかはよく分かっていない。確かなのは、当時誰もが信じていた「もっと富を」「もっと名誉を」という価値観から精神的に距離をとり、無欲の境地に立った人物だったということだ。
「最初の老子」の言葉に触発された「続く老子たち」が争いの絶えない日々の出来事を見つめていると、現実を支配する「道」という法則が具体的に見えてきた。
それは、人間がいくら工夫や行動をしても決して逆らえない絶対的な法則であり、当時の行動原理主義者たちが見落としていたものだ。さらに『老子』の思想は、その後「続く老子たち」によって「道」の法則をいかに利用するか?という方向へと発展。
その結果として生まれたものこそ、強さよりも弱さ、有名よりも無名、見える行動よりも見えない行動を武器とすることで、自分の身を安全圏に置きながら、物事を成し遂げる独特の謀略術であり、