- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書は、非国家主体によるオシント(公開情報に基づくインテリジェンス)の存在と、そのパワーについて、最新のロシア・ウクライナ戦争をはじめとする世界情勢や事件などを具体例として解説する。一読すれば、オシントによって真実を解き明かしていく過程と、得られる精密さから、情報が持つ驚異的な力を感じることができるはずだ。
毎日新聞と毎日新聞ニュースサイトで掲載した「オシント新時代 荒れる情報の海」(第2回「PEPジャーナリズム大賞」2022・検証部門賞受賞)をもとに大幅加筆のうえ出版された本書。誰もが日常的に膨大な情報に触れる「情報戦争」の現在地を知りたい方、国際政治経済に興味関心がある方はぜひご一読いただきたい。
毎日新聞編集編成局の部署を横断した記者・デスクによる特別取材チーム。本書の基になった連載「オシント新時代 荒れる情報の海」は、2022年「PEP(政策起業家プラットフォーム)ジャーナリズム大賞」検証部門賞を受賞した。
第1章 べリングキャットの衝撃
第2章 「隠れ株主」中国を探せ
第3章 市民もオシント
第4章 ワクチンめぐるデマも拡散
第5章 迫る「ディープフェイク」の脅威
第6章 公開情報を分析せよ 動き出した政府
要約ダイジェスト
ウクライナ侵攻とSNS時代の「情報戦」
ロシアによるウクライナへの軍事侵攻では、SNSを通じた、従来にない世界規模の激しい情報戦が繰り広げられている。虚実入り交じった情報が飛び交う中、大きな存在感を発揮しているのが、非国家主体による新時代のオシント(OSINT=open-source intelligence 公開情報に基づくインテリジェンス)だ。
2022年4月初旬、ウクライナの首都キーウ近郊ブチャ市で撮影された動画は、ウクライナ国防省などが公開後瞬く間に SNSを駆けめぐり、ロシア軍による民間人虐殺が強く疑われる証拠として世界に大きな衝撃を与えた。
そこには、後ろ手に縛られた私服姿の人や、自転車ごと倒れて動かない人など多くの遺体が映り込んでいた。国際社会ではロシア軍を非難する声が急速に広がる中、ロシア国防省は虐殺を否定。
撮影された動画や写真の遺体は、ロシア軍の撤退後にウクライナ側によって置かれたものだと示唆し、ロシア政府はその後も「動画はフェイク(偽物)」「演出された挑発行為」などとする主張を繰り返した。
これに対し、衛星画像などの分析にたけたメディアや民間のオシント専門家たちが詳細な反証を加えた。米紙ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、ロシア軍の撤退後に撮影された動画を検証した記事を配信し、路上に放置されていた民間人の遺体の多くは、ロシア軍支配下にあった3月半ばから3週間近く同じ場所にとどまっていたと指摘。
決め手となったのは商用の衛星画像だ。地上 50センチの大きさまで認識できるとされる高解像度の衛星画像が、通りに横たわる遺体を捉えていたのである。
続いて英国の公共放送 BBCが、通りに遺体が散乱する動画に関するロシアの主張の真偽を検証するファクトチェック記事を報じた。米国の宇宙開発企業がメディアに提供した衛星画像の日付について、異なる衛星を運用する複数の企業が同時期に撮影した通りの画像を入手し、路上の遺体など映り込んだ内容に矛盾がないことを確認した。
誤情報の検証に取り組む英国の NGOは、