『アメリカ 分断の淵をゆく―悩める大国・めげないアメリカ人』
(國枝すみれ/著)

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  • 著者プロフィール
  • 目次
 国民の所得格差が大きな国は社会や政治が不安定になりがちだが、近年のアメリカはまさにそのような状況で社会の分断が進んでいる。思想的にも多文化主義を推進しようとするリベラルと、キリスト教に基づく伝統的な社会を維持しようとする保守に分かれ、憎しみ合っているのだ。

 こうした現象は経済格差が広がりつつある日本や欧米諸国にも今後起こり得る。そこで本書では、長年アメリカ特派員として活躍した著者が、白人至上主義者、薬物依存者、尊厳死推進派、性犯罪者、不法移民など、様々な分断の最前線にいる人々に直接取材し、真実のアメリカの姿を描き出す。

 一読すれば、今後の日本社会のあり方を考えるうえでも多くの示唆が得られるはずだ。著者は毎日新聞社記者で、英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、ロサンゼルス、メキシコ、ニューヨーク特派員などとして活躍。2005年、長崎原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。

著者:國枝 すみれ(Kunieda Sumire)
 1967年、東京生まれ。湘南で育つ。慶應義塾大学、ミシガン大学大学院で学ぶ。1991年、毎日新聞に入社。英字新聞毎日デイリーニューズ編集部、ロサンゼルス、メキシコ、ニューヨークで特派員。2005年、長崎への原爆投下後に現地入りした米国人記者が書いたルポを60年ぶりに発見して報道し、ボーン・上田記念国際記者賞を受賞。引っ越し18回。
第1章 心の「故郷」を蝕む悪魔の薬
第2章 KKKに会いに秘密の森へ
第3章 最期の決断
第4章 温暖化で沈む島の小さな暮らし
第5章 BLM発祥の「世界最凶」の街
第6章 反骨の記者の「リメンバー・パールハーバー」
第7章 可視化された100万の性犯罪者たち
第8章 死の灰にまみれたアメリカ人
第9章 寛容と排外主義のボーダーで
第10章 分断、その深き淵より

要約ダイジェスト

心の「故郷」を蝕む悪魔の薬

 ジョン・デンバーが「カントリー・ロード」を作ったのは1971年。全米で大ヒットしたこの歌によっては、ウエストバージニアはアメリカ人の心の「故郷(ホーム)」となった。

 その「故郷」が病んでいる。原因はオピオイド系(麻薬性)鎮痛剤だ。人口約180万人のウエストバージニアで2007~12年という短い間に、約7億8000万錠が販売された。モルヒネやアヘンと同じケシの実由来の鎮痛剤は、あっというまに大量の薬物依存者を作り出し、ヘロインなど違法薬物の使用へと拡大した。

 ウエストバージニアの人口10万人あたりの薬物過剰摂取による年齢調整死亡率は全米平均の3倍近い。1999年以降、全米で100万人以上が薬物の過剰摂取で死亡した。2021年の1年だけでも、交通事故や銃暴力の死者数をはるかに上回る、10万7000人に達している。

 だが私は薬物依存者を責める気にはならない。責められるべきは、たった数カ月で依存症に陥るような危険な鎮痛剤を作ってぼろもうけした製薬会社や、製薬会社から金をもらい乱用を知りながら処方菱を書きまくった医者ではないのか。

 さらには製薬業界と政界の癒着だ。製薬会社パーデュー・ファーマが、オピオイド禍の原因となる鎮痛剤オキシコンチンを「依存性のリスクがより少ない安全な鎮痛剤」として売り出したのは1996年。

 乱用を察知しても、危険性について正確な説明をしていなかったとして罰金など6億3400万ドルを支払わされても、売り続けた。罰金よりはるかに大きな収益が得られたからだ。パーデュー・ファーマはオキシコンチンだけで350億ドルもうけた。

 そして2600以上の自治体から損害賠償訴訟を起こされると、同社は2019年秋に破産申請した。その一方で、2008~19年までに100億ドルが会社から創業者一族のサックラー家に渡ったとされる。サックラー家は2022年、60億ドルを支払う代わりに、将来にわたって民事の賠償訴訟の対象とされないという約束をとりつけた。

 タバコ業界はアメリカで集団訴訟に敗訴した後、

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