- 本書の概要
- 著者プロフィール
そこで本書では、キリスト教とイスラム教の対立だけでなく、キリスト教の内部での対立、日本における仏教と神道の対立、さらには宗教と世俗主義との対立まで、あらゆる宗教対立が起こる社会的、経済的な原因を考察。その上で、宗教とテロとの関係も、歴史上の出来事を踏まえて解き明かしている。
著者は現代や歴史に現れる日本、世界の宗教現象をテーマとして著述活動を行う宗教学者。世界の国々で起こっている様々な問題を、宗教という軸で捉え直すことができる1冊として、国際政治の背景への理解を深めたい方はもちろん、歴史的事象が起こる根本的な原因を追究したい方はぜひご一読いただきたい。
1953年東京生まれ。作家・宗教学者。76年東京大学文学部宗教学科卒業。同大学大学院人文科学研究科修士課程修了。84年同博士課程修了(宗教学専攻)。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員を経て、東京女子大学・東京通信大学非常勤講師。現代や歴史に現れる日本、世界の宗教現象を幅広くテーマとし、盛んに著述活動を行っている。著書に『性(セックス)と宗教』 (講談社現代新書)、『創価学会』(新潮新書)、『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)、『戦後日本の宗教史』(筑摩選書)など多数。
第2章 宗教対立の陰に経済がある
第3章 キリスト教とイスラム教は対立していたか
第4章 インドの宗教対立の歴史を追う
第5章 2つの原理主義が向かう先
第6章 宗教とテロの関係史
第7章 世俗主義が巻き起こす新たな宗教対立
要約ダイジェスト
ロシア正教とウクライナ正教の反目
2022年2月 24日、ロシアがウクライナに侵攻した。ロシアは、北大西洋条約機構(NATO)の東方への拡大が続き、隣国であるウクライナまでがそこに加盟することを恐れたことで侵攻に踏み切ったとされる。
実は、以前からそれを予感させるような出来事が宗教の世界で起こっていた。ロシア人やウクライナ人の多くは東方正教会の信仰をもっており、これまではロシア正教会がウクライナ正教会を管轄してきた。
こうしたあり方は、1991年にソビエト連邦が解体し、ウクライナが国家として独立を果たしても変わらなかった。ところが、2014年にロシアはウクライナ南部のクリミアを併合してしまう。この事態は宗教の世界にも波及し、ウクライナ正教会がロシア正教会からの独立をめざすこととなった。
2018年 10月、東方正教会全体でもっとも権威があるとされるコンスタンティノープル総主教庁は、ウクライナ正教会のロシア正教会からの独立を承認した。これを受けて、同年 12月、ウクライナ正教会は、国内で分裂していたウクライナ独立正教会を統合する形でロシア正教会からの独立を決定した。
ロシア正教会はこの決定に強く反発し、関係を断絶、ウクライナ正教会の独立も認めていない。複雑なのは、ウクライナ国内には、モスクワ総主教庁との関係を維持している、もう1つ別のウクライナ正教会が存在することである。
信者の数では独立したウクライナ正教会が人口全体のおよそ半数を占めているのに対して、モスクワ総主教庁系のウクライナ正教会も約4分の1に達している。ロシアのプーチン大統領は、侵攻についての宣言で、「ウクライナでのロシア系正教徒への宗教迫害を終わらせ、西側の世俗的価値観から守る」と述べた。
このように、現代の重大な出来事の背景には、宗教をめぐる歴史が深くかかわっており、宗教対立は、