- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書は「値上げのためのマーケティング」と題されている通り、特に日本企業が苦手とするプライシング(値決め)戦略に重点を置き解説された、マーケティングの教科書的一冊です。著者は、ネスレやディズニー、そしてマッキンゼーなどでマーケターとしての実務経験を積み、現在ではビジネス・ブレークスルー大学教授やコンサルタントとして活躍している菅野誠二氏。
ファストフードチェーンに代表される低価格戦争と、その後業界全体が苦しんでいる状況は皆さんの記憶にも新しいと思いますが、著者はこのようにプライシング(値決め)や正しい値上げ戦略こそ、経営を左右する最も重要なファクターであると主張します。そして、日本企業のプライシング戦略があまりに弱い(逆に改善の余地がある)と感じたことが本書執筆の動機となったと語っています。
そもそもプライシングを含むマーケティングの統括担当「CMO」を配置している日本企業は、米国62%に対してなんと0.3%という数値だそうです。日本は世界でも稀な売上重視(利益軽視)文化であり、それが自らの首を絞めているのです。本書では著者の提唱する「価値創造プライシング」に基づき、マーケティングの基本概念からプライシングに関する専門理論まで網羅的に解説されており、参考書的にも使える一冊です。
また、法人営業において、なかば定価(正価)が有名無実化していることも多いと思いますが、B2B(対企業取引)での価格戦略や、価格競争の仕掛け方と防御策など、類書ではあまり見ない内容も解説されているのも本書の特長です。マーケティング入門者から新事業、製品開発担当の方はもちろん、法人営業に携わる方もお薦めできる内容になっています。
著者:菅野誠二(カンノ セイジ)
ボナ・ヴィータ代表取締役。ビジネス・ブレークスルー大学教授(マーケティング)。
早稲田大学法学部卒、IMD経営大学院MBA。ネスレ日本株式会社、ブエナ・ビスタ(ウォルト・ディズニー・カンパニービデオ部門)マーケティングディレクター、マッキンゼー&カンパニーにて経営コンサルタントとして営業戦略立案プロジェクトの実施や、商社のマルチメディア戦略、韓国財閥企業の新商品開発プロセスのリ・エンジニアリング、都銀のニューメディアバンキング戦略、アパレルメーカーの新規事業戦略立案等を担当し、ボナ・ヴィータを設立
出版:クロスメディア・パブリッシング(インプレス)
はじめに
PART1 マーケティングはお客様へ提供する価値を創造すること
PART2 現状を知りマーケティング上の課題を見つけなさい
PART3 顧客価値創造プライシングを最適化しなさい
PART4 顧客価値創造プライシングを組織化する
おわりに
要約ダイジェスト
マーケティング上の価格戦略の意義
マーケティングとは『消費者、顧客、パートナー、および社会全体にとって価値のある提供物(Offerings)を創造、伝達、流通、交換するための活動、一連の制度、およびプロセス』をいう。(出展:米国マーケティング協会2007年)
ここで重要な概念は「消費者・顧客にとって価値ある提供物」、「交換」という点である。「交換」する際の価格戦略の巧拙が企業の利益に直結しているのだ。
仮に自分の会社が1%値上げに成功した場合と、販売数量の1%増加、固定費または変動費の1%削減とでは、それぞれどの程度利益が増加するかご存じだろうか?
実は圧倒的に「価格を1%上げる」ことの成果が大きい。ペンシルバニア大学ウォートンスクールの教授らの調査によれば、主な米国産業の感度分析をしたところ、営業利益改善率の順位は、①価格10.29%、②変動費6.52%、③販売量3.28%、④固定費2.45%の順である。
業界によってこの改善率は多少変化するが、この順位は変わらない。また、その改善インパクトは、日本企業では米国と比して倍以上となる。
これはいかに日本企業のプライシングが下手かということ、つまり改善余地が大きいということを証明しているのではないだろうか。
『顧客価値創造プライシング』とは何か?
本書で紹介する「顧客価値創造プライシング」とは、同一商品でも異なるセグメントのお客様には、時と場合によって感じていただける価値が異なるので、それぞれに価値を創造し、最適価格をつけて儲けるための手法である。