『22世紀の民主主義』
(成田悠輔/著)

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 昨今、SNSなどで「選挙に行こう」と若者の政治参加を呼びかける政治家やインフルエンサーが増えている。だが、本書の著者、成田悠輔氏は「若者が選挙に行って『政治参加』したくらいでは何も変わらない」と断言する。全有権者に占める 30歳未満の有権者の割合は 13.1%に過ぎず、投票率が上がっても超マイノリティのままだからだ。

 つまり既存の枠組みの中で動いていても、ガス抜き以上の効果はなく、選挙や政治、民主主義というゲームのルール自体を作り変える必要があるのだ。そこで著者が提唱するのが、「無意識民主主義」という新たな仕組みだ。AIやブロックチェーンなどを活用した「無意識民主主義」によって、民主主義の理念をより正確に具現化できるという。

 著者はイェール大学助教授、半熟仮想株式会社代表で、専門はデータ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。幅広い社会課題解決に取り組むとともに、テレビや YouTubeで表現活動を行う人物。今の民主主義や選挙のあり方に閉塞感や違和感を感じている方、日本社会の未来を考えたい方はぜひご一読いただきたい。

著者:成田 悠輔(Narita Yusuke)
 夜はアメリカでイェール大学助教授、昼は日本で半熟仮想株式会社代表。専門は、データ・アルゴリズム・ポエムを使ったビジネスと公共政策の想像とデザイン。ウェブビジネスから教育・医療政策まで幅広い社会課題解決に取り組み、企業や自治体と共同研究・事業を行う。混沌とした表現スタイルを求めて、報道・討論・バラエティ・お笑いなど多様なテレビ・YouTube番組の企画や出演にも関わる。東京大学卒業(最優等卒業論文に与えられる大内兵衛賞受賞)、マサチューセッツ工科大学(MIT)にてPh.D.取得。一橋大学客員准教授、スタンフォード大学客員助教授、東京大学招聘研究員、独立行政法人経済産業研究所客員研究員 などを兼歴任。内閣総理大臣賞・オープンイノベーション大賞・MITテクノロジーレビューInnovators under 35 Japan・KDDI Foundation Award貢献賞など受賞。
第1章 故障
第2章 闘争
第3章 逃走
第4章 構想

要約ダイジェスト

故障

 経済と言えば「資本主義」、政治と言えば「民主主義」と言われるが、ちょっと考えるとこの提携は奇妙である。ざっくり言って、資本主義経済では少数の賢い強者が作り出した事業がマスから資源を吸い上げる。富める者がますます富む仕組みが資本主義だ。

 民主主義はその逆で、過剰な権力集中を抑制する仕組みだ。どんな人でも選挙で与えられるのは同じ一票。そのため、平均値や中央値が大事になる。

 実直な資本主義的市場競争は、能力や運や資源の格差をさらなる格差に変換する。そこに富める者がますます富む複利の魔力が組み合わされば、格差は時間とともに深まる。

 このつらさを忘れるために人が引っ張り出してきた鎮痛剤が、凡人に開かれた民主主義なのだろう。その躁鬱的拮抗が普通選挙普及以後のここ数十年の民主社会の模式図だった。

 しかし、躁鬱のバランスが崩れて、ただの躁になりかけている。資本主義が加速する一方、民主主義が重症に見えるからだ。今世紀の政治は、勃興するインターネットや SNSを通じた草の根グローバル民主主義を夢見ながらはじまった。

 だが、現実は残酷だ。ネットを通じた民衆動員で夢を実現するはずだった中東の「アラブの春」は一瞬だけ火花を散らして挫折し逆流。ネットが拡散するフェイクニュースや陰謀論やヘイトスピーチが選挙を侵食し、北南米や欧州でポピュリスト政治家が増殖した。

 私とイェール大学・須藤亜佑美さんが行ったデータ分析では、世論に耳を傾ける民主主義的な国ほど、今世紀に入ってから経済成長が低迷しつづけている。「民主世界の失われた 20年」とでも言うべきこの現象は、中国と米国を分析から除いても、G7諸国を除いても成立するし、どの大陸・地域でも見られる。グローバルな現象である。

 21世紀の最初の 21年間、インターネットや SNSの浸透に伴って民主主義の「劣化」が起きた。重症の民主主義が再生するために何が必要か。その答えが独裁・専制への回帰ではないことは、ロシアの自爆的侵略や中国社会・経済を見ても明らかだ。

 求められているのは民主vs.専制の二項対立を超えた、民主主義の次の姿への脱皮である。そんな脱皮を思い描くため、3つの処方箋を考えていく。(1)民主主義との闘争、(2)民主主義からの逃走、

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