- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書では、マンガ・アニメ・ゲームを「ポップカルチャー」と総称し、具体的な作品を解説しながら、その歴史的な変遷を分析する。ポップカルチャーが持つ教養としての力や時代性とともに、民俗や宗教との関連まで幅広く考察することで、新しい教養のスタンダードとしてポップカルチャーを再定義した一冊だ。
著者は哲学者、宗教学者で、ロスジェネ世代・就職氷河期世代の1人として自身の経験を踏まえてポップカルチャーを論じている。メディアやコンテンツビジネスに携わる方、80年代から現代までの時代変化、古典的教養やサブカルチャーへの新たな見方を発見したい方にはぜひご一読いただきたい。
1979年生まれ。哲学者、宗教学者。博士(宗教思想)。2002年、南山大学文学部哲学科卒業(現在は人文学部に統合)。2010年、南山大学大学院人間文化研究科宗教思想専攻博士後期課程修了。現在、南山大学宗教文化研究所非常勤研究員。著書に『「死」の哲学入門』『「死」の文学入門』(日本実業出版社)、『必修科目鷹の爪』(KADOKAWA/プレビジョン)、『あなたの葬送は誰がしてくれるのか』(興山舎)などがある。2022年1月から中日新聞、東京新聞で「やわらか文化論 ポップカルチャーのススメ」を連載中。
マンガは教養か?
フィクションは「現実」を描くべきか?
自己啓発、宗教とポップカルチャーとの深い関係
伊藤潤二の漫画を宗教的モチーフで読み解こう!
アダブテーションってなんだ?『攻殻機動隊』
第2部 アニメ
アニメを研究するとはどのようなことか?
バブル期のカリカチュアとしてのアニメ作品たち
浦島太郎を特撮にしたら?!
就職氷河期の救済は異世界転生モノにしかない?
アニメ絵はルッキズムを助長しているか?
第3部 ゲーム
ビデオゲームとは何か?
かけ足でビデオゲームの歴史
監獄物語としてのゲーム『龍が如く』
ゲーム文化は映画をどう変えたのか?
ゲームの本質とは何か?
要約ダイジェスト
マンガは教養か?
「教養」は「上流階級のためのマナー」に近いと考える人もいるが、私にとっての「教養」とは、「教養とは何か」を問い続けることを含めた振れ幅のある概念だ。「教養とは何かを問い続ける」という意味で教養人のイメージに近いのが、マンガ家のジョージ秋山である。
ジョージ秋山はシェイクスピア、ゲーテ、ドストエフスキーなどに代表されるような大正から戦後日本を支配した古典的な教養に懐疑的な視点を持っていた。例えば『カラマーゾフの兄弟』をまっ向から勝負を挑むように読んだ人はどのくらい存在するだろうか。
日本から見て、ロシアという風土の不可解さがあるにせよ、この作品に見られるのは人間の欲望の醜さ、社会の非情さ、信仰に潜む闇などであり、偉大な作品には違いないが、決して誰しもがそこから「心豊かに生きる」術が得られるという類のものではないように思われる。
ジョージ秋山、松本零士、手塚治虫の三者は、同じ文学作品を扱って、それぞれに作品を生み出した。ジョージ秋山が、『カラマーゾフの兄弟』を使って「教養とは何か」を問いかけたとすれば、松本零士は『罪と罰』を使って「教養」の意味を問いかけつつ、さらに作中のヴィジョンを活用して、近未来の社会を描いた。
そして原作に即して描きながら、自らの解釈を加えたのが手塚治虫だった。ぜひこれらを読み比べてほしい。そのいずれもが「マンガとは何か」「教養とは何か」を考えさせる“教養”であることがわかる。
教養というものが、他者や世界に視野を向けるのに対し、自己啓発において見つめる対象は「個としての自分の成長」だ。2020年代の自己啓発本のメイン(売れ筋)は、経済的な豊かさを目的とするものが増えている。
『道は開ける』(カーネギー)『思考は実現化する』(ナポレオン・ヒル)など自己啓発本の古典には「他者への配慮」「公共心」があるが、新自由主義的な自己啓発本の主軸はどこまでいっても自分。自分のみが勝ち抜けること、経済的成功のみを願う本が見られる。
他方で、「マンガみたいな自己啓発本」も増えている。「20代で最強になる」「自分史上最高に」「無敵になる」などといった煽り文句は、鳥山明『ドラゴンボール』のような80年代マンガからの影響を感じる。
幼少期に『ドラゴンボール』に熱中した世代が 40代となり、