『今を生きるあなたへ』
(瀬戸内寂聴ほか/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 2021年 11月に 99歳で惜しまれながら逝去した僧侶・作家の瀬戸内寂聴氏。本書は寂聴氏と、12年間秘書を務めてきた瀬尾まなほ氏の共著で、100歳を前に京都の寂庵で行われたインタビューを収録したものだ。寂聴氏の最後のメッセージと言える内容であり、瀬尾氏の歯に衣着せぬ物言いと、寂聴氏の軽妙な切り返しが魅力となっている。

「渇愛」ではなく「慈悲」の心を持つことや、他人を思いやることを説いた「忘己利他」、物事の不変を表す「諸行無常」など、寂聴氏の考え方の中には、随所に仏教の教えが散りばめられている。自然な会話の中からそういった教えを学んだり、生きる上で大切な考え方、悩みや苦しみの処方箋を知ることができる一冊だ。

 瀬戸内寂聴氏は小説家として活躍後、51歳で出家し仏道に入る。その後も執筆活動を続け、数々の賞を受賞。瀬尾氏は瀬戸内寂聴の秘書として著書も持つ人物で、本書の最後に寂聴氏と瀬尾氏がお互いについて語る部分は、2人の強い信頼関係がうかがえる。生き方や考え方を見つめなおしたい方はぜひご一読いただきたい。

著者:瀬戸内 寂聴(Setouchi Jakucho)
 小説家、僧侶(天台宗大僧正)。1922年、徳島県生まれ。東京女子大学卒業。21歳で結婚し、一女をもうける。京都の出版社勤務を経て、少女小説などを執筆。57年に「女子大生・曲愛玲」で新潮同人雑誌賞を受賞、本格的に作家生活に入る。73年に得度し「晴美」から「寂聴」に改名、京都・嵯峨野に「曼陀羅山 寂庵」を開く。女流文学賞、谷崎潤一郎賞、野間文芸賞、泉鏡花文学賞など受賞多数。2006年、文化勲章受章。著書に『夏の終り』『美は乱調にあり』『花に問え』『場所』『風景』『いのち』『源氏物語』(現代語訳)など多数。2021年11月9日に逝去、享年99。

瀬尾 まなほ(Seo Manaho)
 瀬戸内寂聴秘書。1988年、兵庫県生まれ。京都外国語大学英米語学科卒業。卒業と同時に寂庵に就職。3年目の2013年3月、長年勤めていたスタッフたちが退職し、66歳年の離れた瀬戸内寂聴の秘書になる。著書に『おちゃめに100歳! 寂聴さん』『寂聴先生、ありがとう。秘書の私が先生のそばで学んだこと、感じたこと』。困難を抱えた若い女性や少女たちを支援する「若草プロジェクト」の理事も務めている。

親愛なる先生へ
第一章 愛は見返りを求めません
第二章 周りの人の幸せを考えなさい
第三章 思うがままに生きなさい
第四章 この世は有り難いことばかり
第五章 ものごとは必ず変わります
第六章 やりたいことを貫きなさい
まなほのこと 瀬戸内寂聴 何も知らなかったまなほの成長を見ながら
寂聴先生のこと 瀬尾まなほ 私に勇気を与えてくれる心強い先生へ

要約ダイジェスト

「渇愛」ではなく、「慈悲」の心で

 最初は自分がしてあげたいという純粋な気持ちからしてあげたことでも、それを続けるうちに、「ありがとうと言ってほしい」「たまにはお返しが欲しい」などつい見返りを求めてしまう。それを当たり前と開き直って見返りを要求するようなら、その関係はもう半年も続かないだろう。本当の愛情とは、「してあげたいから、してあげる」というものだ。

 人間関係において見返りを求めないほうがいいのは、それが「もっと、もっと」とエスカレートするからだ。例えばこちらが 10をあげたら、その見返りとして、12や 13が欲しくなってくる。そして、お互いに苦しくなり、その関係がこわれてしまう。

 見返りやお返しを求めてしまうような愛情を、仏教では「渇愛」と呼び、強く戒めている。一方、見返りやお返しを求めないような愛情を「慈悲」と呼ぶ。仏教の極意は、慈悲に尽きる。「慈」とは人に楽を与えることで、「悲」とは人の苦しみを抜き去ること。そのどちらにしろ、仏様は何の見返りもお返しも求めない。それこそが本当の愛情である。

 わかってほしいというのは、相手に自分の思い通りに動いてほしいという下心があるからだ。本当に好きな相手だったら、そんなことはどうでもよくなる。好きになるということは、すべてを許すということだ。「ここは好きだけれども、ここは嫌い」というのは、本当に好きではない。

 友だちも同じだ。しっかりした関係性に基づいた友だちであれば、自分がこうされたらイヤだということを相手はわかってくれていると、お互いに思っている。相手のことをわかろうという気持ちと、自分のこともわかってほしいという気持ちのバランスが取れている。そこには、しっかりとした愛情が成立している。

 それを友情と呼ぶ人もいるが、私に言わせれば、それは愛情だ。本来、人は孤独で淋しいものだとわかっているから、それを分かち合える相手として人を求めるし、相手に対する共感や理解、相手を思いやる心が生まれるのだ。

「和顔施」は周りの人を幸せにする

 仏教には悟りに至るために実践しなければならない「六波羅蜜」という6種類の修行があり、その1つが「布施」だ。今はお寺やお坊さんに、葬儀や法事のお礼の意味を込めてお金やものを差し上げることをお布施と呼んでいるが、それだけが布施ではない。

 お金やものを持っていなくてもできる「無財の七施」というものがあり、

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