『パラコンシステント・ワールドー次世代通信 IOWNと描く、生命と ITの〈あいだ〉』
(澤田 純/著)

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  • 著者プロフィール
  • 目次
 2019年、NTTはフォトニクス(光技術)を中心とした超高速大容量通信ネットワーク基盤 IOWN(アイオン)構想を発表、現在 80社を超えるパートナーと協業が進んでいる。この新たな情報社会インフラ構想の背景には、科学技術万能主義や二元論的思考を超克する「パラコンシステント(paraconsistent)」(同時実現)という思想があるという。

 本書では、その基本的な理念や思想・テクノロジー的背景を解説し、さらに、福岡伸一氏(生物学者)、山極壽一氏(人類学者)、出口康夫氏(哲学者)、坂村健氏(コンピュータ科学者)、伊藤亜紗氏(美学者)らの有識者との対話を通じ、IOWNにより実現される未来社会の姿に迫っている。

 著者は技術開発、サービス開発、法人営業、経営企画業務などを経て、2018年6月より日本電信電話株式会社(NTT)代表取締役社長を務める人物。情報通信ビジネスの未来だけでなく、生命や身体と IT、社会デザイン、テクノロジーと哲学といったテーマに興味関心がある方はぜひご一読いただきたい。

著者:澤田 純(Sawada Jun)
 日本電信電話株式会社代表取締役社長。1978年日本電信電話公社に入社。技術開発、サービス開発、法人営業、経営企画等の業務を担当した後、2014年日本電信電話株式会社代表取締役副社長を経て、2018年6月より現職。
第Ⅰ部 IOWNビジョン
 1 現代に立ち現れたさまざまな矛盾
 2 矛盾を受けとめる〈あいだ〉の思想
 3 〈あいだ〉 をつなぐ基盤を築く
第Ⅱ部 IOWNダイアローグ
 ダイアローグ01:×福岡伸一|生命と ITの〈あいだ〉
 ダイアローグ02:×山極壽一×出口康夫|ローカルとグローバルの〈あいだ〉
 ダイアローグ03:×坂村健|技術と思想の〈あいだ〉
 ダイアローグ04:×伊藤亜紗×渡邊淳司|身体と ITの〈あいだ〉
第Ⅲ部 IOWNゲームチェンジ
 1 [過去・現在] インターネットが生んだひずみ
 2 [未来] 次世代のために
 3 [現在] 経済安全保障をめぐって
 4 [現在・未来] 今こそゲームチェンジを
 5 [未来] ウェルビーイングをめざして

要約ダイジェスト

現代に立ち現れたさまざまな矛盾

 いま、私たち人類は、未曾有の危機に直面している。新型コロナウイルスによるパンデミックは、いまだ収束が見通せず、次々に立ち現れる変異株に世界が翻弄されている。急激な気候変動による大規模な自然災害も、日本のみならず世界各地であとを絶らない。

 これらの厄災は、テクノロジーによって自然を制御・支配することをめざしてきた人間への、自然からの応答とも言える。次々に私たちを襲う困難を乗り切るためには、いままでの常識にはなかったような対策が不可欠だ。

 私が、現代の社会のありように違和感を覚えるようになったのは、大学時代のことだ。大学では土木工学を専攻したが、土木工学の基本思想として最初に叩き込まれたのが「トレードオフ」という考え方だった。それ自体は、現代の科学技術の本流とも言える基本的かつ合理的な考え方であり、当初は疑問に感じることはなかった。

 土木工事の場合、複数の選択肢から最適と思われる方法を選びながら進める。ただし、その根底にはトレードオフの考え方がある。例えば、河川の橋を架け替える計画ならば、強度を高めれば、当然、コストも上がり、強度を高めつつコストを下げることはできない。

 このとき必要になるのが、その土地や自然条件を詳しく知ることだが、古い橋にひずみゲージなどをつけて計測しても、自然のなかに置かれた橋のすべての挙動を把握するには至らない。

 当時は、いずれ技術が進歩すれば、より多くの要素を精密に計測することが可能になり、もっと最適な選択ができるようになると考えていた。しかし、現実世界は複雑かつ矛盾だらけで、現在のテクノロジーでも、現実世界をそのまま写し取ることはできていない。

 さらに、90年代後半に米国に赴任した際に、二元論だけではうまくいかないと思うようになった。違う言語、文化を持つ人同士が合意形成や意思決定をしていくには、二項対立や二元論だけでは、とうてい解決できない問題が厳然としてある。

 お互いにとってより良い姿を模索するためには、単なるトレードオフでもなく、二元論でもない、第三の道を選ぶことが肝要だ、と徐々に思うようになった。

トレードオフからパラコンシステント(同時実現)へ

 未来社会の青図を描くに当たり、これからの日本が進むべき第三の道は、個を重んじつつ、社会を維持していくガバナンスのしくみや、公益性、言い換えるならコモンズ(共有地)とも言うべき場を同時に実現するという、きわめて難しい取り組みになる。

 そのためには、トレードオフによってどちらかを優先し、全体として単にバランスをとろうとするのではなく、あちらもこちらも、どちらも優先するという「同時実現」こそが重要となる。これは「パラコンシステント(paraconsistent)の思想」と言える。

 パラコンシステントとは、二律背反するような事柄に対し、そこに内包されるさまざまな矛盾を許容しつつも双方をつなぐことを意味する。この考え方を押し広げ、たとえ矛盾を含む情報がベースにあるとしても、そこからより良い推論を導き出し、

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