- 本書の概要
- 著者プロフィール
対象となる武将たちは武田勝頼、上杉景勝、伊達政宗、真田幸村、島津義弘、柳生宗矩など 著名武将から知る人ぞ知る武将まで 12人。現代でも経営課題とされることが多い「事業承継」「マーケティング」「組織改革」「小勢力の独自戦略」というテーマに沿って解説されている。
著者は中学時代に歴史シミュレーションゲームによって戦国時代の面白さに目覚め、現代のビジネスフレームワークを使って戦国武将を分析する中小企業診断士。各武将の戦略が年表や地図、イラストを用いてわかりやすく解説されており、歴史好きはもちろん、ふだんあまり歴史書などを読まないビジネスパーソンも興味深く読み進められるはずだ。
中小企業診断士。1972年生まれ。大阪府出身。龍谷大学経済学部卒業。中学1年生で、MSX版の歴史シミュレーションゲームに出会い、戦国時代の面白さに目覚め、小説や漫画、図説シリーズの戦国ものに傾倒し、もしも自分が戦国武将だったならという妄想に浸る。数十年後、中小企業の販路開拓の支援などの仕事を経て、中小企業診断士の資格を取得するために経営分析に関するビジネスフレームワークなどを学び、企業の経営支援などに従事していく。そのなかで、戦国時代と企業経営の親和性について関心を持ち、現代のビジネスフレームワークを使って戦国武将を分析する「戦国SWOT」ブログを2019年からスタートさせる。現在は、企業の経営支援と並行しながら「戦国SWOT」に関するオンラインセミナーの謂師を務め、中小企業診断士の協会会報誌などへの執筆を行っている。
第2章 戦国武将たちのマーケティング「戦国時代のブランディングの成功と失敗」
第3章 戦国武将たちの組織と人事「意思決定権がないリーダー成功と失敗」
第4章 戦国武将たちの生存戦略「小勢力の独自戦略の成功と失敗」
要約ダイジェスト
武田勝頼 なぜ先代から受け継いだ遺産を活かせず滅びたのか?
武田勝頼は、父の信玄の跡を継ぎ、甲斐国を中心に100石に及ぶ領地と武田二十四将と呼ばれる有能な家臣団を引き継いだ。しかし、10年後には、織田信長の手によって滅ぼされてしまった。なぜ、多くの遺産を受け継ぎながら、滅びてしまったのか?
勝頼は、決して無能だったわけではない。信長は、勝頼は武勇にすぐれた武将であったが、運が悪かったという高い評価をしており、武田信玄のライバルでもあった上杉謙信も、当時同盟関係にあった信長に勝頼の武勇を警戒するよう伝えるほど高く評価していた。
しかし、組織を運営する能力と、個人的な武勇は、まったく別のものだ。特に、先代から引き継いだ広大な領地と有能な家臣団のマネジメントとなると、高いリーダーシップ力とマネジメント能力が求められる。
この時期の武田家を SWOT分析してみると、強みの武勇を発揮して領土拡張を進めるなか、外部環境に大きな変化が起きつつあった。それは信長包囲網の弱体化だ。まだ、包囲網は存在しつつも、足利家や本願寺の力は大きく弱まりつつあり、頼りにしていた朝倉家・浅井家が滅亡するなど、外部環境は悪化の一途を辿っていた。
また内部環境である武田家の団結力にも、すきま風が吹きつつあった。徳川家と対峙していた重要拠点である長篠城の奥平家が裏切るなど組織の内部にゆるみが出ていたのだ。勝頼は、徳川方へ寝返った長篠城の奥平貞能を強引に攻めて、軍事力を頼りに組織のゆるみの解決を図る。
そして、信玄の病死からわずか2年後に、武田家の運命を左右する長篠の戦いを起こした。この当時の状況について、武田家の軍学書『甲陽軍鑑』によれば、勝頼は、ベテラン家臣たちの経験に基づいた意見を無視し、