『文章の鬼100則』
(川上徹也/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 ビジネスコミュニケーションにおいては、メールや企画書など、文章で人を動かす必要がある場面も多い。その際「正確な文章」「伝わるだけの文章」は必要だが、それだけでは不十分だ。本書ではビジネスで結果を出すための文章を「働く文書」として定義し、その文章術を解説する。

「働く文章」とは、「相手の心を文章で動かし、相手を行動に向かわせる」文章だ。しかも、過去に書いた働く文章は、あなたが眠っている間にも分身のように勝手に働き、稼いでくれる。こうした文章を書く際に役立つのが「コピーライティングの技術」と「心理学の知識」であり、本書ではその考え方から具体的手法まで100項目にわたり公開。

 著者はコピーライターとして多くの受賞歴があり、現在は湘南ストーリーブランデイング研究所代表。組織の「理念」を1行に凝縮するコピーを得意とし、さまざまな業種の大手企業に社員向けライティング研修も行っている。文章力はもちろん、コミュニケーション力やマーケティング力向上を目指す方もぜひご一読いただきたい。

著者:川上 徹也(Kawakami Tetsuya)
 コピーライター。湘南ストーリーブランディング研究所代表。 大阪大学人間科学部卒業後、大手広告代理店勤務を経て独立。東京コピーライターズクラブ新人賞、フジサンケイグループ広告大賞制作者賞、広告電通賞、ACC賞など受賞歴多数。中でも、企業や団体の「理念」を1行に凝縮し旗印として掲げる「川上コピー」が得意分野。「物語」の持つ力をマーケティングに取り入れた「ストーリーブランディング」という独自の手法を開発した。
第1章 Premise~鬼前提~
第2章 Principle~鬼原則~
第3章 Skill~鬼技術~
第4章 Psychology~鬼心理~
第5章 Theory~鬼法則~

要約ダイジェスト

タイトル・見出しは文章の顔

 あなたの文章が本気で読まれるかどうかは、本文を読む前にもう決まっている。決め手となるのは、タイトル・見出し、キャッチコピーなど、本文の前にある1行だ。膨大な情報があふれている現在社会においては、読み手はその1行だけを見て、本文を読む価値があるかどうかを判断するからだ。

 タイトル・見出し、キャッチコピーなど、本文の前にある1行は、いわば文章の顔である。人の第一印象が顔で判断されるのと同じように、文章もまず顔で判断される。顔がないのは論外で、何について書いてある文章か分からないので、読む気がしない。いかなる文章にも、タイトルや見出しをつける習慣をつけよう。

 顔があっても、いかにもつまらなさそうだったら、読み手は「本文もつまらないだろう」と判断する。ただし、顔だけを磨きすぎるのも考えものだ。タイトルと中身があまりに乖離していると、読者はバカにされたように感じる。

 たとえばネットニュースで、タイトルに興味をそそられてクリックして、中身を読んでみると全然違った文章が書かれていたとしたら、どう思うだろう?まるで自分が釣られた魚のような気分になり、激しく後悔して怒りさえ感じるはずだ。これを個人や会社がやると、信頼の失墜につながる。顔に見合う、文章の中身がなければならない。

すべてはワンメッセージのために

 いろいろなことを伝えようとすると、結局何も伝わらないことになる。相手の心に強く刺さり、気持ちを動かすためには、メッセージはひとつに絞るべきだ。そして、その「ワンメッセージ」を伝えることにすべての精力を注ぐのだ。

 企画書・プレゼン・メール・広告・ウェブサイト・セールスレター・プレスリリースなどのビジネス文章はすべて「ワンメッセージ」に絞る。さらに書籍のようなまとまったコンテンツであっても、一冊で伝えるべきことは「ワンメッセージ」に絞るのが理想だ。

 書籍では、そのワンメッセージを伝えるために、十万字以上を使う。実用書であれば、いろいろな角度からアプローチしてさまざまな実例をあげていく。小説やノンフィクションであれば、そのワンメッセージを伝えるためにストーリーを紡いでいくのだ。

 ただし、いくらひとつに絞っても、それが手垢のついたメッセージでは相手の心に刺さらないし、動かせない。ワンメッセージには、何かしら「新しさ」がなければならない。つまり、そのメッセージを受け取った人にとって何かの「発見」があるということだ。

 たとえば、「愛は心の底から湧き出てくる尊いものだ」では、普通すぎてわざわざ読みたい人は少ないだろう。では「愛は技術であり、学ぶことができる」というメッセージではどうだろう?

「愛」という、一般的には崇高だと思われている概念を「技術」「学ぶことができる」と言い切ることで、新しさを感じる。これはエーリッヒ・フロムの古典的名著『愛するということ』の冒頭に書かれているメッセージだ。

 極言すると、何かしら新しいメッセージがなければわざわざ書く意味がない。そして残念ながら、こうすれば新しいメッセージが生み出せるという魔法の方法はない。脳に汗をかいて、ひたすら考え続けるしかないのだ。

「読みやすい」は、正義

 ビジネス文章で最も重要なのは、「読みやすい」ということだ。ノーベル経済学賞を受賞した認知心理学者のダニエル・カーネマンは、その著書「ファスト&スロー』の中で、「脳に負担を与えない『読みやすい文章』を読むと、人は心地よさを覚え、書き手に『親しみ』や『信頼』を感じる」と述べている。

 文章が読みにくくなる要因はさまざまだ。例えば「タイトルや見出しがない」「文字の級数が小さい」「余白が少ない」「漢字とかなのバランスが悪い」などの理由だけでも、文章は大幅に読みにくくなる。まずは適宜、見出しを入れたり、行間に余白を取ったり、字を大きくしたりしてみるだけでも、読みやすくなる可能性は高い。

 次に、文章の中身が原因で読みにくいのは、「論理が繋がっていない」というケースが多い。書き終えたら、論理が繋がっているかを確認し、分かりにくいところは、接続詞を使って、きちんと論理が繋がる文章にする必要がある。

 また、リズムがいいかどうかも重要だ。同じ接続詞の重複や、同じ語尾が続きすぎると単調になってしまい、文章のリズムが悪くなることが多い。重要な文章であればあるほど、読み手の脳に負担をかけないことを意識しよう。

常套句は空気と思え

 言葉には「強い」「弱い」がある。強い言葉とは、「記憶に残る」「心に刺さる」「行動したくなる」言葉のことだ。弱い言葉とは、「手垢のついた」「ありきたりな」「心が動かない」言葉だ。

 タイトル・見出し・キャッチコピーに「強い言葉」が使われていると、人はその内容に興味を持つ。ただし、この言葉を使えば必ず強くなるというような魔法の言葉はない。使う場面によって、大きく変わってくるからだ。

 それでも、ひとつだけ言葉を強くする原則がある。「常套句を避ける」ということだ。常套句とはよく使われるありきたりなフレーズのこと。人は何も考えずに書くと、ついついよく耳にする常套句を書いてしまいがちだ。

 例えば「高機能」「高品質」「最先端」「こだわり」「伝統」「厳選した」「最高の」「極上の」…このような言葉は書かれていても気づかない空気のような存在だ。文章の中身では「定型文」がそれにあたる。自分が気持ちよくすらすらと書けたタイトル・見出し・キャッチコピーは、常套句ではないかとまず疑ってみるところから始めよう。

アリストテレス説得の三原則

 古代ギリシアの哲学者アリストテレスの『弁論術』という本の中に、以下の「言葉で人を説得するための三原則」が書かれている。

アリストテレスの説得の三原則
①「ロゴス」英語の Logicの語源。「論理」「理性」などの意味。
②「パトス」英語の Passionの語源。「情熱」「熱意」などの意味。
③「エトス」英語の Ethicsの語源。「信頼」「人柄」「倫理」などの意味。

 シンプルに言うと以下のようになる。
①「ロゴス」論理立てて理性で相手を説得すること。
②「パトス」情熱や熱意で相手を説得すること。
③「エトス」自分を信頼してもらうことで相手を説得すること。

 この三原則、二千年以上たった今でも、そのまま通用するすごい原則だ。ロジックだけでは人は動かない。パトス、すなわち熱意が必要になってくる。しかしパトスだけでは空回りしてしまう。ロゴスとパトスがバランスよく含まれた上で、エトスが必要だ。

 よくある失敗は、どれかひとつの要素で文章を書いてしまうということだ。ロゴス・パトス・エトスの要素が入っているか、チェックする習慣をつけよう。自分が書いた文章のエトスが低いと思ったら、たとえば以下のようなことをしてエトスを高めておこう。

・自分の意見を補強する偉人や有名人の言葉を引用する
・その分野の権威の人に監修をしてもらう
・上司のお墨付きをあらかじめもらっておく
・信頼性のあるデータを添付する
・アンケート調査などの資料を添付する

ストーリーを語れ

 伝えたい思いや情報を「ストーリー(物語)」にして語ろう。人類は「ストーリー」が大好きな生き物だ。太古の昔から語り継いできた。小説、映画、ドラマ、マンガ、アニメ、ゲームなど、フィクションだけではなく、ノンフィクションの分野でも、大半のコンテンツには「ストーリー」の要素が含まれている。

「ストーリー」を語ることは、販売、広告、PR、DM、プレゼンテーション、リーダーシップなど、ビジネスの多くの分野で有効だ。ではどうすれば「ストーリー」を感じるライティングができるか?そのヒントは、世の中に流通しているさまざまな「物語」にある。そこに共通するのは、「人」が「主人公」になっていることだ。

 逆に、「人という主人公」がいないと「物語」にはならない。すなわち「商品」を主人公にするのではなく、その商品を扱っている「人」を主人公にすることで初めて、読み手は「ストーリー」を感じるのだ。

人類共通の感動のツボ

 ビジネスで「ストーリー」を語る時は、以下の「ストーリーの黄金律」を意識しよう。ストーリーの黄金律とは、「人類共通の感動のツボ」だ。「また、このパターンか」と分かっていても、そこを押されるとついつい心を動かされてしまうポイントである。

ストーリーの黄金律
①欠落した、もしくは欠落させられた主人公が
②遠く険しいちょっと無理なのではと思う目標に向かって
③いろいろな障害や葛藤、また敵対するものに立ち向かっていく

 この原理はハリウッド映画からスポーツ漫画まで、多くのエンタメ作品で採用され、ドキュメンタリータッチのバラエティ番組等でも幅広く使われている。例えば、2019年からNHKで放映されている「逆転人生」という番組のタイトルの一部を見てみよう。

「復活!奇跡のしょうゆ被災地の逆転劇」「凡人、天才に勝つ遅咲き棋士の大勝負」「ヤクザから牧師へ壮絶な転身人生はやり直せる」…、いずれもタイトルを見るだけで「ストーリーの黄金律」が感じられる。

 実際、どの回も、欠落した主人公たちが、遠く険しい目標に向かって、さまざまな障害や葛藤を乗り越えていくというストーリーになっている。「ストーリーの黄金律」は強力である故に、絶対に「嘘」があってはダメだ。もし、少しでも「嘘」があると、その感動は大きくマイナスに振れてしまう。

© 2021 ZENBOOKS,Inc. All Rights Reserved.
要約記事は出版社または著作者から適法に許諾を取得し、作成・掲載しています。本記事の知的所有権は株式会社ゼンブックスに帰属し、本記事を無断で複製、配布、譲渡することは固く禁じます

特集