- 本書の概要
- 著者プロフィール
それに伴い、認知症患者の判断力低下を狙った悪質商法や家族内トラブル、企業の不祥事対応など、社会全体での様々な対策が必要とされているのだ。しかも認知症は治療が困難で完全な予防はできず、誰もが関わる可能性のある問題だ。そこで本書では特に認知症と財産をめぐる諸問題を整理し、自身や家族の認知症進行前からできる対策を解説する。
著者は慶應義塾大学医学部助教、精神科医。千葉大学医学部卒業後、内閣府などを経て現在は慶應義塾大学医学部で精神科医・産業医として勤務する傍ら、医療政策や予防医療などの研究に従事する人物。すでに当事者として関わる方のみならず、社会課題の一つとして若手ビジネスパーソンにもぜひご一読いただきたい。
慶應義塾大学医学部助教、精神科医。1989年、神奈川県生まれ。千葉大学医学部在学中に国家公務員総合職採用試験に合格し、卒業後は内閣府に入府。高齢社会対策、子育て支援などに従事し、高齢社会白書の作成にも携わる。内閣府退職後、東京女子医科大学東医療センターを経て、現在は慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室に所属。精神科医・産業医として勤務する傍ら、医療政策や予防医療などの研究に従事。共著に『企業は、メンタルヘルスとどう向き合うか』(祥伝社、2020年)がある。
第1章 認知症の現在
第2章 なぜ「認知症とお金の問題」なのか
第3章 家庭における認知症とお金の問題
第4章 企業の視点からみた認知症とお金の問題
第5章 社会における認知症とお金の問題
おわりに
要約ダイジェスト
認知症とお金の問題
超高齢社会を迎えた日本では、認知症は増加の一途を辿っており、2015年に発表された研究によれば、2025年には 65歳以上の5人に1人である、約 730万人が認知症になると推計されている。
認知症の難しいところは、現代の医学でもほとんどの場合治療が困難で、完全な予防もできないことだ。今後も、長生きしていれば誰もがなる可能性があるという状況は変わらず、認知症の増加を食い止めるのは困難であるとみられている。
そうした中で、2016年頃から、認知症をとりまく問題として政府内で重視されていたものの一つに「認知症とお金の問題」がある。認知症になると記憶や判断能力が衰え、特殊詐欺や悪質商法など、消費者トラブルに巻き込まれるリスクが増加するのだ。
また、認知症が進行すると、買い物や預金の引き出しなどを法律上一人で行うことができなくなり、資産を動かすことができなくなるなどの問題も起こる。
第一生命経済研究所の試算(2018年)では、認知症の人がもつ家計金融資産が 2030年度には家計金融資産全体の1割を超える 215兆円に達する見込みであると報告され、大きな話題を呼んだ。日本政府の当初予算が100兆円程度であることを考えると、社会問題として捉えるべき段階になってきているのだ。
また、こうした問題は認知症の顧客と接する機会がある企業にとっても避けては通れない。現に、2019年には、かんぽ生命保険とゆうちょ銀行の不適切販売問題が発覚し、日本中に大きな衝撃を与えた。
この問題では、職員が、高齢の方や認知症の方の判断力の低下につけ入る形で、