- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書はその続編として、同書の著者 野中郁次郎・竹内弘高両氏が、発刊から 25年を経てアップデートされた理論を提唱。暗黙知と形式知に加えて「実践知」を兼ね備え、イノベーションを社会にまで還元する「ワイズカンパニー(賢慮の企業)」と「ワイズリーダー(賢慮のリーダー)」のあり方を多数の企業事例を通じて解説する。
著者 野中郁次郎氏は一橋大学名誉教授で知識創造理論、ナレッジマネジメントの権威として知られ、竹内弘高氏はハーバード・ビジネス・スクール教授、一橋大学名誉教授、国際基督教大学理事長を務める人物。前作を読んだことがない方でも読み進められる内容となっており、経営や組織マネジメントに携わる方はぜひご一読いただきたい。
一橋大学名誉教授。1935年東京都生まれ。58年早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造勤務の後、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院にてPh.D.取得。南山大学経営学部、防衛大学校、一橋大学産業経営研究施設、北陸先端科学技術大学院大学、一橋大学大学院国際企業戦略研究科各教授、カリフォルニア大学(バークレー校)経営大学院ゼロックス知識学特別名誉教授を経て、現在、一橋大学名誉教授、日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジマネジメントの権威で、海外での講演多数、。主な著作に『組織と市場』(千倉書房)『失敗の本質』(共著、ダイヤモンド社)『日米企業の経営比較』(共著、日本経済新聞社)『直観の経営』(共著、KADOKAWA)、The Knowledge-Creating Company(共著、Oxford University Press、邦題『知識創造企業』)Managing Flow(共著、Palgrave Macmillan)などがある。
著者:竹内 弘高(Takeuchi Hirotaka)
ハーバード・ビジネス・スクール教授。1946年東京都生まれ。69年国際基督教大学卒業。71年カリフォルニア大学バークレー校にてMBA、77年同校にてPh.D.取得。ハーバード大学経営大学院(ハーバード・ビジネス・スクール)助教授、一橋大学商学部教授、同大学大学院国際企業戦略研究科初代研究科長などを経て、現在、ハーバード大学経営大学院教授、一橋大学名誉教授。2019年より国際基督教大学理事長を兼務。グローバル企業との実務経験もあり、ダボス会議をはじめとする国際会議にスピーカーとして数多く出席している。主な著作に、『ベスト・プラクティス革命』(ダイヤモンド社)、『企業の自己革新』(共著、中央公論社)、The Knowledge-Creating Company(共著、Oxford University Press、邦題『知識創造企業』)、Can Japan Compete?(共著、Basic Books、邦題[『日本の競争戦略』)、Extreme Toyota(共著、John Wiley & Sons、邦題『トヨタの知識創造経営』)などがある。
訳者:黒輪 篤嗣(Kurowa Atsushi)
翻訳家。1973年茨城県生まれ。上智大学文学部哲学科卒業。ノンフィクションの翻訳を幅広く手がける。主な訳書に、グレガーセン『問いこそが答えだ!』、バジーニ『哲学の技法』、ラワース『ドーナツ経済学が世界を救う』、ダベンポート『宇宙の覇者 ベゾス vs マスク』、ヒルほか『ハーバード流 逆転のリーダーシップ』、yバートソンほか『レゴはなぜ世界で愛され続けているのか』などがある。
第1章 知識から知恵へ
第2章 知識実践の土台
第3章 知識創造と知識実践のモデル
第2部 ワイズカンパニーの6つのリーダーシップの実践
第4章 何が善かを判断する
第5章 本質をつかむ
第6章 「場」を創出する
第7章 本質を伝える
第8章 政治力を行使する
第9章 社員の実践知を育む
エピローグ 最後に伝えたいこと
要約ダイジェスト
知識から知恵へ
『知識創造企業』の刊行からおよそ四半世紀が経った。同書で提唱したのは、新しい組織的知識がいかに SECI(共同化:Socialization、表出化:Externalization、連結化:Combination、内面化:Internalization)というプロセスを通じて生まれるかについての理論だった。
『知識創造企業』の出版は、経営学者の間に「ナレッジ(知識)ブーム」を巻き起こし、やがてナレッジマネジメントという新しい分野も生み出した。しかし一方で危機感を覚えるのは、世界にはあらゆる知識が揃っていながら、世界の金融システムの崩壊を食い止められもしなければ、コダック、ゼネラルモーターズといった業界の盟主の失墜を防げもしなかったことである。
これらの失敗はすべて、前著刊行当時より、知識が「いっそう豊かなもの、グローバルなもの、複雑なもの、深いもの、互いにつながったもの」になった中で起こっている。ここには3つの問題がある。
第1には、正しい種類の知識が利用されていないということ。知識には暗黙知と形式知の二種類がある。企業の幹部陣がえてして頼ろうとするのは、形式知(言葉にでき、計量でき、一般化できる知識)のほうだ。
しかし形式知を頼みにする企業は、変化に対処できない。社会現象は文脈に依存しており、人々の主観的な目標や価値観、興味、あるいはそれらの相互依存的な関係だとかを考慮しなければ、社会現象の分析は何の役にも立たないからだ。
第2には、ピーター・ドラッカーが述べているような、未来を「創る」ということがなされていないということ。研究によれば、企業の根本的な差は、思い描かれる未来像の違いから生まれる。企業のトップが実現したいと望む未来は、主観的な目標や、信念や、関心に根差しているべきである。
何より肝心なのは、未来の創造では自社が儲かりさえすればよい、という発想をやめなくてはならないということである。マネジャーは自社にとってだけではなく、社会にとって善であるかどうかを熟慮して、判断を下すことが求められる。そうすることで初めて、企業は社会的存在(社会に永続的な恩恵をもたらすという使命を帯びた存在)であるという自覚が芽生える。
第3には、時代にふさわしいリーダーを育成していないということ。過去に類例のないほどダイナミックで不安定な今の世界には、賢明な変革者の役割を果たせるリーダーが求められる。それは何事にも文脈があること、あらゆるものが変わること、どんなことも成否はタイミングに左右されることを踏まえて行動を起こすリーダーである。
SECIモデルの再考
われわれの研究では、リーダーには形式知と暗黙知に加え、「実践知」が必要になる。実践知とは、経験によって培われる暗黙知であり、賢明な判断や、価値観とモラルに従って実情に即した行動を取ることを可能にする。
こうした実践知を備えたリーダーを「ワイズリーダー(賢慮のリーダー)」、ワイズリーダーに率いられた企業を「ワイズカンパニー(賢慮の企業)」と呼ぶ。リーダーが組織全体で実践知を育むとき、その組織は新しい知識を創造するだけでなく、優れた判断を下せるようになる。なぜなら、