『オードリー・タン デジタルとAIの未来を語る』
(オードリー・タン/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 新型コロナウイルスの発生源である中国の隣国でありながら、ロックダウンを伴わない水際対策で、いち早くその封じ込めに成功した台湾。一連の対策のなかで、マスク流通の仕組みといったデジタルソリューションを主導したのが、現在台湾デジタル担当政務委員を務めるオードリー・タン氏だ。

 本書では、タン氏自身によって、台湾の新型コロナウィルス対策の詳細が記されるとともに、台湾が推進する社会のデジタル化の方向性、デジタル技術や AIで変わる未来の社会、教育、経営、民主主義、イノベーションなどの姿が語られている。一貫して流れているのは、あくまで人間や公益を中心に据えたテクノロジー観である。

 史上最年少でのデジタル担当政務委員、IQ 180超、中学校中退、トランスジェンダー、シリコンバレーでの起業経験など、異色のパーソナリティにも注目が集まるタン氏。氏の生い立ちや現在までの歩み、日本へのメッセージも本書には盛り込まれている。テクノロジーや社会課題の解決に興味関心がある方はぜひご一読いただきたい。

著者:オードリー・タン(Audrey Tang 唐鳳)
 台湾デジタル担当政務委員(閣僚)。1981年台湾台北市生まれ。幼い頃からコンピュータに興味を示し、12歳でPerlを学び始める。15歳で中学校を中退、プログラマーとしてスタートアップ企業数社を設立。19歳のとき、シリコンバレーでソフトウエア会社を起業する。2005年、プログラミング言語「Perl6(現Raku)」開発への貢献で世界から注目。同年、トランスジェンダーであることを公表し、女性への性別移行を開始する(現在は「無性別」)。2014年、米アップルでデジタル顧問に就任、Siriなど高レベルの人工知能プロジェクトに加わる。2016年10月より、蔡英文政権において、35歳の史上最年少で行政院(内閣)に入閣、無任所閣僚の政務委員(デジタル担当)に登用され、部門を超えて行政や政治のデジタル化を主導する役割を担っている。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100人に選出。2020年新型コロナウイルス禍においてマスク在庫管理システムを構築、台湾での感染拡大防止に大きな貢献を果たす。
序 章 功を奏した ITによる新型コロナ対策
第一章 私をつくってきたもの
第二章 デジタル民主主義とソーシャル・イノベーション~誰もが政策に寄与できる社会
第三章 ITは教育をどのように発展させるか~プログラミング思考を身につける
第四章 AIが開く新しい社会~デジタルは人のためにある
第五章 日本へのメッセージ

要約ダイジェスト

SARSの経験を活かした台湾のコロナ感染拡大防止策

 台湾は今年(2020年)、全世界に感染が広がった新型コロナウイルスの封じ込めにいち早く成功した。台湾では、ウイルスの正体が明らかになる前から、水際での感染拡大防止に全力を傾けてきた。具体的には、1月20日にいち早く「中央感染症指揮センター(CECC)」を設立し、各部会(日本でいえば省庁)が連携して防疫対策に臨む態勢を構築した。

 そして、1月 21日に武漢から帰国した台湾人女性の感染が確認されると、翌日には武漢からの団体観光客の入国許可を取り消し、24日には中国本土からのすべての団体観光客の入国を禁止。同時にスマートフォンを活用して、感染経路の確認および感染者と接触した可能性のある人たちを割り出し、全員に警告メールを送った。

 さらに、民間企業にマスクの増産を要請し、それをすべて政府が買い上げ、すべての人々に行き渡る策を練った。こうした素早い対応の結果、台湾では他国のようなロックダウン(都市封鎖)や学校の休校、飲食店の強制休業などを行う必要がなかったのだ。

 台湾が今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止に成功した理由の1つに、2003年に流行した SARS(重症急性呼吸器症候群)の経験がある。台湾では、SARSによって、346人の感染者と 73人の犠牲者を出し、台北市内の病院が2週間にわたり封鎖されるという事態も起こった。

 現在の政権内には、感染症や公衆衛生の専門家がたくさん含まれている。これは、公衆衛生の観点から言えば、「少数の人が高度な科学知識を持っているよりも、大多数の人が基本的な知識を持っているほうが重要である」ことを学んだ結果である。

 基礎的な知識を持っている人が多ければ多いほど、お互いに意見を出し合ったり、対策を考えることができる。逆に、少数の人のみが高度な科学知識を持っているだけの状態では、何が起こっているか理解していない人が多いということだ。

 もし台湾の街中で、誰かに「なぜ石鹸で手を洗わなければならないか」と聞けば、間違いなく「ウイルスを洗い流せるから」と答えるだろう。水で洗うだけでは意味がなく、石鹸を使わなければ洗っていないのと同じであるという基本的な知識を持っているのだ。

 台湾の人たちは、CECCが毎日発表する記者会見での情報を真剣に受け止め、新しい感染症に対する知識を深めていた。そして、「自分のいる場所でいかにしてより良い方法でウイルスに対抗していくか」を考え、一人ひとりがイノベーションを図っていった。民主主義社会においては、イノベーションは決して中央にいる一握りの人たちが他の多くの人々に強制するものではないのだ。

コロナ対策の重要テーマとなったマスク問題をいかに解決したか

 新型コロナウイルス対策に関しては、SARSの反省を踏まえ、医療関係者には独自のマスク流通経路が確保されていたので問題は起こらなかったが、大きな課題になったのが、一般の人々に対して「いかにして早くマスクを届けるか」だった。

 当初、政府は「コンビニエンスストアやドラッグストアで誰もがマスクを3枚まで購入できる」という政策を進めた。だが、

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