- 本書の概要
- 著者プロフィール
著者らによれば、格差や不平等は、貧困だけでなく多くの社会的問題や病理の原因となっている。本書では、人間社会や脳の機能進化からさかのぼり、心身の健康被害や幸福度の低下、犯罪率、中毒皇道の蔓延、地域共同体の崩壊、経済停滞といった格差の悪影響の具体例、そして適切な平等主義社会への是正の方法を提示する。
著者のリチャード・ウィルキンソンはノッティンガム大学メディカルスクール名誉教授、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授、ケイト・ピケットはヨーク大学健康科学学部教授で、ともに英国の不平等を解決するための市民団体を設立。今後の日本社会のあり方や方向性を考えるうえでも多くの示唆に富む一冊だ。
経済学者、公衆衛生学者。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスで経済史を学び、後に疫学を学ぶ。ノッティンガム大学メディカルスクール名誉教授、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン名誉教授。著書に『格差社会の衝撃』『寿命を決める社会のオキテ』など。ケイト・ピケットとの共著『平等社会』は『ニュー・ステイツマン』誌の「この10年に読むべき本トップ10」に選出され、20を超える言語に翻訳された。
ケイト・ピケット(Kate Pickett)
疫学者。ヨーク大学健康科学学部教授、同大学未来の健康センター副所長。ケンブリッジ大学で形質(自然)人類学を、コーネル大学で栄養学を、カリフォルニア大学バークレー校で疫学を学ぶ。『平等社会』共著者のリチャード・ウィルキンソンとともに、英国の不平等を解決するための市民団体組織イクオリティ・トラストを設立する。
訳者:川島睦保(Kawashima Mutsuho)
1955年福岡県生まれ。1979年横浜国立大学経済学部卒業後、東洋経済新報社入社。『週刊東洋経済』編集長、取締役出版局長を務める。1991~92年にフルブライト留学生として米国ハーバード大学経済学部に在籍。2017年に退社後はフリーのジャーナリスト、翻訳家として活動。訳書に『シャルマの未来予測』『「追われる国」の経済学』。
第1章 格差は私たちを不安にさせる
第1部 格差はこうして私たちの心を蝕む
第2章 格差は私たちの自信を打ち砕く
第3章 格差で私たちは誇大妄想狂になる
第4章 格差は私たちを中毒に追いやる
第2部 社会階級にまつわる神話を壊そう
第5章 人は根っから利己的にできているという誤解
第6章 生まれつきの能力差が格差を生むという誤解
第7章 上流の文化はすべて一流であるという誤解
第3部 新しい社会の創出に取り組もう
第8章 なぜ格差と環境問題の解消を同時に考えるのか
第9章 人類と地球のために、生産活動を見直そう
要約ダイジェスト
心の病はなぜこんなに広がっているのか
先進国ではしばらくの間、心の病の比率が高水準でしかも増加する傾向にあった。1952~1993年の米国の調査では、40年の間に学生のグループ、成人のグループともに不安感のレベルが大きく増大している。
また米国心理学会の 2017年調査によると、80%の米国人が無力感、うつ、神経過敏、不安など複数のストレス症状を訴えている。経済成長は私たちに空前の物質的な豊かさと安らぎをもたらしてくれたが、逆に精神的な不安は減少どころか高まる傾向にあるのだ。
世界保健機関(WHO)の調査によると、先進国では開発途上国よりも心の病の発症率が大幅に高い。多くの研究において、富裕層と貧困層の所得格差が大きな社会ほど社会生活が弱体化し、格差が小さな社会ほど連帯が強まることが、繰り返し示されている。
格差のない社会ほど、地域のグループやボランティアの活動、市民団体への参加率が上昇する傾向がある。人々の間では相互の信頼感や扶助の精神が高まり、暴力犯罪率(=殺人率)は一貫して低下している。平等な社会ではお互いが仲良く暮らしていくことができるのだ。
ではなぜ平等な社会では社会の連帯が強まるのか。最も適切な答えは、