- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書は、祖父でありトヨタ自動車創業者でもある豊田喜一郎氏への共鳴といったルーツにまでさかのぼり、知られざる章男氏の半生と人物像、経営・リーダーシップの根幹に迫った一冊だ。同時に、「クルマづくりの会社」からから“移動”のプラットフォーム「モビリティカンパニー」への脱皮を目指すトヨタの現在と未来も明らかにされている。
本書は『週刊東洋経済』誌の人気連載「豊田章男 100年の孤独」に大幅加筆修正されたもので、良質なビジネス・ノンフィクションとして、自動車産業関係者以外でも興味深く読み進められるはずだ。著者は長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人事論に定評があるジャーナリストで、トヨタ、ホンダなど自動車産業へも造詣が深い人物。
愛知県名古屋市生まれ。経済、経営など幅広いテーマを手掛けるジャーナリスト。鋭い着眼点と柔軟な発想力が持ち味。長年の取材経験に裏打ちされた企業論、組織論、人事論には定評がある。『時代は踊った──オンリー・イエスタディ’80s』(文藝春秋)、『ソニーの法則』『トヨタの方式』(ともに小学館文庫)、『本田宗一郎と「昭和の男」たち』(文春新書)、『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館)、『ふるさと革命──“消滅”に挑むリーダーたち』(潮出版社)、『社員を幸せにする会社』『技術屋の王国──ホンダの不思議力』(ともに東洋経済新報社)、『パナソニック、「イノベーション」企業に進化する!』(PHP研究所)など著書は60冊超。
【公式ウェブサイト】http://katayama-osamu.com/wordpress/
1章 原質―いかに育ったのか
2章 居場所―もう1つの顔
3章 ルーツ―なぜぶれないのか
4章 心象―イチローとの対話)
第2部 経営者
5章 門出―逆風に抗して
6章 試練―リコール事件に鍛えられる
7章 慢心―何を恐れているのか
8章 転換―何を改革したのか
9章 発想―上から目線を廃す
10章 未来―どこに向かうか
要約ダイジェスト
御曹司の宿命
豊田章男が名古屋市に生まれたのは、「経済白書」に「もはや『戦後』ではない」と記された 1956(昭和31)年である。この年、トヨタの乗用車の国内販売台数は1万1,938台。トラック・バスは3万1,613台に過ぎない。モータリゼーションの夜明け前である。
章男は“利かん気”が強く、腕白でやんちゃな子供だった。利かん気、やんちゃこそは、今に至るまで章男という人間の根底にある本性であり心根である。当時の章男に父親の会社について明確な認識はなく、「毎日いろんなクルマに乗って帰ってくる」と思う程度だった。
日本の自動車産業が勢いよく伸び、夢にあふれた時代のなかで、章男は育った。大好きなクルマに囲まれ、経済的にも恵まれた環境とは裏腹に、章男はつねに「豊田家の息子」のレッテルを貼られ、生きづらさを抱えていた。幼少期からイジメに遭い、自尊心が傷つけられた。御曹司の宿命を背負っていたのである。
慶應大学法学部に在学中はホッケー部に所属する。部内では、他の部員と同じく先輩にアゴで使われる一方、日本代表に選出されてアジア大会に出場した。章男は、いわば、世間でいうところの「知的体育会系」である。「何事も、考える前に、まずやってみる」というのが、体育会系の行動パターンの特徴であるが、章男の信条も、それだといっていい。
1984年にトヨタに入社した。27歳だった。章一郎からは「トヨタには、おまえのような者を部下に持ちたい者はおらんだろうな」といわれた。入社してみると、父親の言葉が実感として迫った。年上の上司でありながら彼に対して敬語を使う者や、