『Beyond MaaS 日本から始まる新モビリティ革命―移動と都市の未来―』
(日高洋祐、牧村和彦、井上岳一、井上佳三/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 2018年ごろから、日本でもあちこちで聞かれるようになった「MaaS(Mobility as a Service)」。数年先を行く欧州のシステムと比較し、日本では普及しないとの声もある一方で、現在では各業界からその取り組みの萌芽が感じ取れる。それは MaaSの普及が、超高齢化社会などの社会課題解決の起爆剤となる可能性があるからだ。

 日本ではまだ実証実験レベルの MaaSではあるが、政府がプロジェクトとして掲げており、今後進展することは間違いない。本書は、著者らによる前作の MaaS入門編を発展させ、MaaSの基礎コンセプトから具体的なビジネスプラン、異業種連携(Beyond MaaS)のアイデア、未来のスマートシティの姿までを示した MaaS「実践編」である。

 著者4名は、MaaS事業やモビリティ社会のデザイン、専門誌の発行など、それぞれの形で日本における交通、都市の在り方を検討している専門家。識者へのインタビューも多数収録された本書は、最新版かつ決定版的な一冊といえる。モビリティ産業関係者はもちろん、社会課題解決や新規事業に興味関心がある方はぜひご一読いただきたい。

著者:日高 洋祐(Hidaka Yosuke)
 MaaS Tech Japan 代表取締役。2005年、鉄道会社に入社。ICTを活用したスマートフォンアプリの開発や公共交通連携プロジェクト、モビリティ戦略策定などの業務に従事。14年、東京大学学際情報学府博士課程において、日本版MaaSの社会実装に向けて国内外の調査や実証実験の実施により、MaaSの社会実装に資する提言をまとめる。現在は、MaaS Tech Japanを立ち上げ、MaaSプラットフォーム事業などを行う。国内外のMaaSプレーヤーと積極的に交流し、日本国内での価値あるMaaSの実現を目指す。

牧村 和彦(Makimura Kazuhiko)
 計量計画研究所 理事 兼 研究本部企画戦略部長。1990年、一般財団法人計量計画研究所( IBS)入所。モビリティ・デザイナー。東京大学博士(工学)。筑波大学客員教授、神戸大学客員教授他。都市・交通のシンクタンクに従事し、将来の交通社会を描くスペシャリストとして活動。代表的な著書に、『バスがまちを変えていく~ BRTの導入計画作法』(IBS出版)、『交通まちづくり~地方都市からの挑戦』(共著、鹿島出版)、『モビリティをマネジメントする』(共著、学芸出版社)、『2050年自動車はこうなる』(共著、自動車技術会)など多数。

井上 岳一(Inoue Takekazu)
 日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。1994年、東京大学農学部卒業。農林水産省林野庁、Cassina IXCを経て、2003年に日本総合研究所に入社。Yale大学修士(経済学)。南相馬市復興アドバイザー。森のように多様で持続可能な社会システムのデザインを目指し、インキュベーション活動に従事。現在の注力テーマは、地域を持続可能にする「ローカルMaaS」のエコシステム構築。著書に『日本列島回復論』(新潮選書)、共著書に『AI自治体』(学陽書房)、『公共IoT』(日刊工業新聞社)など。

井上 佳三(Inoue Keizo)
 自動車新聞社 代表取締役 兼 LIGARE編集長。2007年、自動車新聞社入社。立命館大学OIC総合研究機構客員研究員。モビリティサービスの専門誌「LIGARE」(リガーレ)を立ち上げ、移動の質の向上がQOLの向上につながることをモットーに数多くのモビリティを取材。18年からはLIGARE.Newsを立ち上げ、「ひと・まち・モビリティ」に関わるニュースを配信している。15年には立命館大学でFuture Mobility研究会に参画し、豊かなモビリティ社会実現を目指す。モビリティサービスやまちづくりの調査・企画・開発のサポートを行うAMANEを設立。

1章 号砲!令和時代の「日本版 MaaS」
2章 「何のためのMaaSか」~見えてきた課題と光明~
3章 持続可能なMaaSのエコシステムとは?
4章 MaaSビジネスの創り方 ? ~「サービス深化」と「異業種コラボ」2つの答え~
5章 MaaSで導く交通業界の成長戦略
6章 自動車業界激変!CASEの出口としての MaaS
7章 全産業を巻き込む「Beyond MaaS」のビジネスモデル
8章 MaaSが切り拓く 2030年のスマートシティ

要約ダイジェスト

令和時代の「日本版 MaaS」

 MaaS(Mobility as a Service)は、便利なアプリをつくるだけの概念ではなく、シェアリングサービスのことでもない。マイカーの保有を前提とした社会から多様なモビリティが共生する社会にパラダイムシフトをしていこうという概念であり、持続可能で安心安全な社会を目指すものだ。そしてユーザーは MaaSを通して移動の自由を得る。

 2018年、MaaSが初めて国家のフラッグシッププロジェクトとして、重点施策に位置づけられ、その後、政府主導の MaaSプロジェクトが始動した。

 日本で最初の本格的な MaaS、移動支援のサービスといえば、トヨタ自動車と西日本鉄道が連携し、福岡エリアで始めた「my route(マイルート)」だ。既存の交通手段に加えて、タクシー配車サービスやレンタカー、カーシェアリング、自転車シェアリング、駐車場予約などの新しいモビリティサービスを統合しているのが特徴だ。

 さらに、地域のイベント情報やグルメ情報、観光情報などをトリガーに、目的地までの案内、予約、決済・発券までを1アプリで実現している。自動車メーカーと交通事業者の連携は世界的に見てもまれで、マイルートは「日本型 MaaS」の1つの手本となる可能性を秘めている。

 政府があえて「日本版」と銘打つ背景には、MaaS発祥の地である欧州と日本の公共交通をめぐる事情の違いがある。欧州の場合、公共交通は公的主体が担うのが一般的だが、日本では、鉄道の場合でも民間が自己資金でまかなう。加えて、日本では私鉄各社が鉄道建設と沿線開発を一体的に行い、公共交通とその他のサービス業・商業で収益を確保する独自のビジネスモデルがある。

 これにより、私鉄の沿線経済圏ならば、「移動と多様なサービスの連携による高付加価値化」や「交通結節点の整備等まちづくりとの連携」が実現しやすくなる。一方で、私鉄沿線に当たらない郊外や地方、過疎地などの課題も残る。MaaSはその完成までに長い時間を要する、息の長いプロジェクトなのだ。

 カギとなるのは、「Beyond MaaS」という視点だ。異業種との連携を活発化させ、まちづくりや社会課題解決という到達点からブレイクダウンする形でビジネスモデルを再構築することが重要になる。

 注意しなければならないのは、新たなサービスの可能性を見出しても、それはあくまで手段に過ぎない点だ。達成すべきは、社会課題の解決、ひいては都市の価値、あるいは生活する人の QOL(生活の質)を高めることなのだ。

全産業を巻き込む「Beyond MaaS」のビジネスモデル

住宅・不動産×MaaS

 MaaS実現によるビジネスインパクトは、主たるプレーヤーである自動車や交通業界にとどまらない。例えば、世界では、MaaSを前提に、

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