『ラディカル・マーケット―脱・私有財産の世紀』
(エリック・A・ポズナーほか/著)

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 経済の停滞や格差の拡大、政治の腐敗など、世界の政治と経済を取り巻く諸問題は近年さらに混迷の度合いを増しているようだ。そこで本書が提示する処方箋は、制度の調整といった小手先のものではなく、タイトル通りラディカル(過激な、根本的な)改革だ。その対象は、資本主義の根幹でもある私有財産制度にも向けられる。

 たとえば、著者らが提唱する「共同所有自己申告税」(COST)は、オークションの概念を応用して財産をより高く評価する者の手に渡らせて有効活用させる。また、「二次の投票」(QV)は、一人一票のあり方を変え、自身の関心の強さを投票に反映させる制度だ。他にも移民、テクノロジーについてなど、様々な提案がなされている。

 一読すれば、一見過激なそれらの主張が、自由市場を公正な本来の姿に戻そうとする試みであり、枠にとらわれない発想のヒントが多数得られるはずだ。著者はシカゴ大学ロースクール教授エリック・A・ポズナー氏と、マイクロソフト首席研究員などを務める E・グレン・ワイル氏。監訳・日本語版解説は大阪大学大学院経済学研究科准教授 安田洋祐氏。

著者:エリック・A・ポズナー(Eric A. Posner)
 シカゴ大学ロースクールのカークランド・アンド・エリス特別功労教授。The Twilight of Human Rights Law(未訳)、『法と社会規範』(太田勝造監訳、藤岡大助[ほか]訳、木鐸社)など著書多数。シカゴ在住。

E・グレン・ワイル(E. Glen Weyl)
 マイクロソフト首席研究員で、イェール大学における経済学と法学の客員上級研究員。ボストン在住。

監訳者:安田 洋祐(Yasuda Yosuke)
 大阪大学大学院経済学研究科准教授。1980年生まれ。東京大学経済学部卒業後、米国プリンストン大学へ留学しPh.D.を取得。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門はゲーム理論、産業組織論。編著に『学校選択制のデザイン』(NTT出版)、監訳に『レヴィット ミクロ経済学 発展編』(東洋経済新報社)など。学術研究の傍らマスメディアを通した情報発信や、政府での委員活動に取り組んでいる。大阪在住。

翻訳:遠藤 真美(Endo Masami)
 翻訳家。主な訳書にティム・ハーフォード『50(フィフティ) いまの経済をつくったモノ』(日本経済新聞出版社)、リチャード・ボールドウィン『世界経済 大いなる収斂』(日本経済新聞出版社)、マーヴィン・キング『錬金術の終わり』(日本経済新聞出版社)、リチャード・セイラー『行動経済学の逆襲』(早川書房)、マーティン・ウルフ『シフト&ショック』(早川書房)、フェリックス・マーティン『21世紀の貨幣論』(東洋経済新報社)、ジャスティン・フォックス『合理的市場という神話』(東洋経済新報社)など。

序 文 オークションが自由をもたらす
序 章 自由主義の秩序の危機
第1章 財産は独占である 所有権を部分共有して、競争的な使用の市場を創造する
第2章 ラディカル・デモクラシー 歩み寄りの精神を育む
第3章 移民労働力の市場を創造する 国際秩序の重心を労働に移す
第4章 機関投資家による支配を解く 企業支配のラディカル・マーケット
第5章 労働としてのデータ デジタル経済への個人の貢献を評価する
結 論 問題を根底まで突き詰める
エピローグ 市場はなくなるのか
日本語版解説

要約ダイジェスト

オークションが世界を救う

 リオは世界でいちばん美しい自然に恵まれた都市だ。しかし、その丘は「ファヴェーラ」で覆われている。ファヴェーラとは、粗末なバラック小屋が並ぶスラム街である。ラテンアメリカで最も裕福な地域であろうレブロンは、こうした丘のふもとにある。ところが、レブロンの住人たちは、通りで腕時計を身につけようとはしないし、夜に赤信号で車を止めることもない。ファヴェーラではびこる暴力に巻き込まれることを恐れているのだ。

 格差が拡大している豊かな国の人々は、自分たちの国にブラジルを見いだすことになるだろう。豊かな国でも、経済が停滞し、政治対立や腐敗が広まっている。ブラジルのような「途上国」はやがてアメリカのような「先進国」になると長く信じられてきたが、逆の方向に進んでいるのではないかという疑問が芽生え始めている。

 それなのに、改革の標準的な処方箋は半世紀の間変わっていない。増税して再分配する。市場を強化して民営化する。あるいは、ガバナンスを向上させ専門知識を強化する──。リオでは、こうした処方箋は明らかに行き詰まっている。貧困は解消されず、土地は中央集権的なやり方で厳格に管理され、政治は対立している。

 もっとよい方法はないのか。リオは格差、停滞、社会の対立を逃れることはできるのか。ニューヨーク、ロンドン、東京もまた、サンバとビーチのないリオになってしまうのか。社会の可能性を開くには、社会をラディカルに再設計しなければいけない。

 市場は社会をうまく調整する最善の方法であり、中期的にそうであり続けるというのが、本書の前提である。しかし、きわめて重要な市場は独占されているか、そもそも存在していない。われわれが思い描くラディカル・マーケットとは、

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