- 本書の概要
- 著者プロフィール
では、「誰もが豊かさを共有できる経済」という理想を実現するために、政治と経済はどうあるべきか。著者によれば、富や生活の真の向上をもたらすのは、ラーニング(学習)やテクノロジーの進歩、法の支配、公正や機会の平等といった価値観、そして政府の介入などだ。その意味で現在の米トランプ政権は事態を悪化させているという。
著者はノーベル経済学賞受賞経済学者で、現在はコロンビア大学教授、ルーズベルト研究所チーフエコノミスト。世界銀行のチーフエコノミストを務め、タイム誌「世界でもっとも影響力のある 100人」に選出されたこともある。今後の日本の政治経済や社会のあり方を考えるうえでも多くの示唆が得られる一冊だ。
ノーベル経済学賞を受賞した経済学者であり、著書に『世界を不幸にしたグローバリズムの正体』『世界の99%を貧困にする経済』『フリーフォール』(すべて徳間書店)などがある。クリントン政権時代の大統領経済諮問委員会の委員長や、世界銀行のチーフエコノミストを務め、タイム誌の「世界でもっとも影響力のある100人」に選ばれたこともある。現在はコロンビア大学で教鞭をとるかたわら、ルーズベルト研究所のチーフエコノミストを務めている。
山田 美明(ヤマダ ヨシアキ)
翻訳家。英語・フランス語翻訳家。東京外国語大学英米語学科中退。訳書に『アスペルガー医師とナチス』(光文社)、『ファンタジーランド』(共訳、東洋経済新報社)、『24歳の僕が、オバマ大統領のスピーチライターに?!』(光文社)、『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(共訳、集英社)など。
第1部 迷走する資本主義
1章 分断された世界
2章 悪化が進む経済
3章 搾取と市場支配力
4章 グローバル化により自らの首を絞める国家
5章 金融が引き起こした危機
6章 新たなテクノロジーが提示する課題
7章 なぜ政府の介入が必要なのか?
第2部 政治と経済を再建するために
8章 民主主義を回復する
9章 万人に仕事やチャンスを提供する力強い経済を回復する
10章 万人にまともな生活を
11章 市民社会を再生する
要約ダイジェスト
分断された世界
現在、世界中に不満が蔓延している。過去四半世紀にアメリカを支配していた経済学や政治科学の考え方によれば、こんなふうにはならないはずだった。1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊すると、ついに民主主義と資本主義が勝利を収め、これからは経済がかつてないほどの速さで成長を遂げ、豊かさが全世界に広がるだろうと考えられた。
だが 2018年頃には、この理想も砕け散ってしまったようだ。2008年の金融危機により、資本主義がかつて思われていたほど完全ではないことが明らかになった。資本主義は効率的でもなければ、安定しているわけでもなかった。
その後の相次ぐ調査により、過去四半世紀の成長の恩恵を主に受けていたのは、最上層にいる人たちだということがわかった。アメリカでは、ごく少数のエリートが経済を支配しており、底辺層にほとんど資源がいきわたっていない。
ある調査によれば、アメリカ人の40%は、子どもが病気になったり車が故障したりして400ドルが必要になったとしても、それをまかなう力がないという。一方で、アメリカでもっとも裕福な3人、ジェフ・ベゾス、ビル・ゲイツ、ウォーレン・バフェットの資産の合計は、アメリカの所得階層の下位半分の資産の合計よりも多い。
もちろん、失敗しているのは経済だけではない。政治もそうだ。経済的分断は政治的分断を生み、その政治的分断が経済的分断をさらに強化する。富や権力を持つ人たちが、その政治力を駆使して、