- 本書の概要
- 著者プロフィール
著者によれば、現代のアーティストはその作品によって、答えや解決方法ではなく「問い」を社会に投げかける。このような「正しい問いを立てる力」や洞察力こそが、複雑化するビジネスにおいても役立つのだ。本書では、様々なアーティストたちの先端的な事例を通じて、アート思考からビジネスに役立つ鑑賞法、美術史や美術市場まで丁寧に解説。
著者は国内外から高い評価を得る香川県の直島アートプロジェクト、石川県の金沢 21世紀美術館等を成功に導き、現在は東京藝術大学大学美術館館長・教授、練馬美術館館長を務める秋元雄史氏。感性や直感を磨きたい方はもちろん、現代アートは「よくわからない」「とっつきづらい」と感じている方はぜひご一読いただきたい。
1955年東京生まれ。東京藝術大学大学美術館長・教授、および練馬区立美術館館長。東京藝術大学美術学部絵画科卒業後、作家兼アートライターとして活動。1991年に福武書店(現ベネッセコーポレーション)に入社、国吉康雄美術館の主任研究員を兼務しながら、のちに「ベネッセアートサイト直島」して知られるアートプロジェクトの主担当となる。2001年、草間彌生《南瓜》を生んだ「Out of Bounds」展を企画・運営したほか、アーティストが古民家をまるごと作品化する「家プロジェクト」をコーディネート。2002年頃からはモネ《睡蓮》の購入をきっかけに「地中美術館」を構想し、ディレクションに携わる。開館時の2004年より地中美術館館長/公益財団法人直島福武美術館財団常務理事に就任、ベネッセアートサイト直島・アーティスティックディレクターも兼務する。それまで年間3万人弱だったベネッセアートサイト直島の来場者数が2005年には12万人を突破し、初の単年度黒字化を達成。2006年に財団を退職。
2007年、金沢21世紀美術館館長に就任。国内の美術館としては最多となる年間255万人が来場する現代美術館に育て上げる。10年間務めたのち退職し、現職。著書に『武器になる知的教養西洋美術鑑賞』『一目置かれる知的教養日本美術鑑賞』(ともに大和書房)、『直島誕生』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『おどろきの金沢』(講談社+a 新書)、『日本列島「現代アート」を旅する』(小学館新書)等がある。
第2章 アートとビジネスの交差点
第3章 イノベーションを実現する発想法
第4章 アートと資本主義
第5章 現代アート鑑賞法
付 録 注目すべき現代アーティストたち
要約ダイジェスト
すべては「問い」から始まる
アートはビジネスの世界から遠い存在に思えるが、人間の営みという高みから俯瞰して見れば、少なからず共通点がある。特に今のような不透明な時代においては、常識にとらわれないアートからのアプローチによって物事を捉えることで、思わぬ解決策や新たな道が開かれる。
アメリカ人アーティスト、ジェームズ・タレルは「アーティストとは、答えを示すのではなく、問いを発する人である」と述べている。今日のアートは、旧来のような人間の内面世界を表現するだけのものでなく、テクノロジーやデザインと結びつき社会課題に新たな提案を行う、あるいは現代思想と結びつき次の時代のあり方を構想するといった思考実験の場所でもある。
ビジネスでは「儲かることが成功」という基準が成り立つが、アートに求められるのは、経済的・社会的成功ではなく、やむことなき自己探求をし続けることだ。社会に対する問題提起、つまり新たな価値や歴史に残るような価値を追求することが、アーティストの願望なのだ。
絵を描くことや見ることといった芸術体験は、一種の「常識からの逸脱行為」である。我々は知らず知らずのうちに、常識にとらわれているが、アーティストはそれらを軽々と乗り越える。ビジネスにおけるイノベーションもまた、そのような「常識からの逸脱行為」によって生まれてくるのだ。
デザイン思考とアート思考
「デザイン思考」がユーザーにとっての最適解を得るための「課題解決」型の思考であるのに対して、アーティストのように思考し、イノベーティブな発想を得る「アート思考」は「そもそも何が課題なのか」という問題をつくり出し、「何が問題なのか」といった問いから始めるのが特徴だ。
本質的な問いを立て、新たなイノベーションを起こす試みは、すでにアートの世界で行われている。2012年、