- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書で取り上げられる 33の裁判実話の犯罪自体は特殊なものではない。ただし、その被告人は公務員、税理士、企業幹部、専業主婦などバラエティに富んでおり、本書では特に、被告人の生き方や、彼らがどこで道を踏み外して間違えて犯罪者になってしまったのかに迫る。さらに後半では法廷から学ぶビジネスマン処世術も解説されている。
著者の北尾トロ氏は法廷ウォッチ歴 19年、町中華探検隊リーダー、移住した長野県松本市で猟師としても活動するなど、多彩な活動と多数の著書を持つノンフィクション作家。一読すれば、裁判など自分には関係がないと思われる方も、仕事や家族、善悪と社会生活など様々なことを考えさせられるはずだ。
1958(昭和33)年、福岡県生まれ。法政大学卒。フリーターなどを経てフリーライターとなり、2005年より裁判傍聴を定期的にスタート。2010年にノンフィクション専門誌『季刊レポ』を創刊し、15年まで編集長。移住した長野県松本市で狩猟免許を取得。猟師としても活動中。主な著書に『裁判長! ここは懲役4年でどうすか』『裁判長! おもいっきり悩んでもいいすか』などの「裁判長! 」シリーズ(文春文庫)、『山の近くで愉快にくらす』(信濃毎日新聞社)など多数。最新刊に2014年に結成した町中華探検隊のリーダーとして執筆した『町中華探検隊がゆく! 』(共著・交通新聞社)、『夕陽に赤い町中華』(集英社インターナショナル)。
第1章 ビジネスマン裁判傍聴記
お金編
女・酒・クスリ編
小事件編
情欲編
被告人を助ける人々編
第2章 法廷の人に学ぶビジネスマン処世術
被告人(表情・外見)編
被告人(言い訳・答弁)編
弁護士編
裁判長編
検察その他編
あとがき
要約ダイジェスト
なぜ「気づいたら飲んでいた」のか
裁判傍聴をしていると、アルコール依存症の被告人にときどき遭遇する。酔ってケンカをする。店で暴れる。ときには殺傷事件を起こすこともある。自分のしたことを覚えていないことも多く、法廷で被告人がよく口にするのが「気がついたら飲んでいました」という言葉だ。
「そんなわけはないだろう」と心の中でツッコミたくなるが、何度も聞かされると、本当にそうなんだなとわかってくる。10年近く前、まさにそんな事例の裁判があった。被告人は営業マンで、暴力事件の裁判だった。
その被告人は、半年ほど前に酒を飲んで同僚を殴ったことがあった。裁判沙汰にはならなかったものの、会社に居づらくなって辞表を提出。転職後は、アルコール依存症であることを自覚し、酒に近づかないように注意しながら生活していたという。
自分は下戸だと嘘をつき、会社の飲み会などには絶対出ない。たとえその場はガマンできたとしても、飲みたいという気持ちに火がついたら終わりだと考えていたからだ。家にはテレビも置かない。うっかり酒の CMを見てしまうかもしれないからだ。通勤電車では酒の中づり広告が多いから、読みもしない文庫本から目を離さないようにしていた。
断酒も半年にさしかかった頃、出社途中の被告人は、