『鈴木敏文の統計心理学
—データサイエンティストを超える仕事術』
(勝見明/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次(主要)
 鈴木敏文氏といえば、いまさら説明は不要ですが、最高益更新など現在も快進撃を続けるセブン&アイ・ホールディングス会長兼CEOであり、80歳を超えてなお現役で経営を率いるカリスマ経営者でもあります。

 過去さまざまなメディアでも取り上げられている鈴木氏の経営手腕の本質は、著者にいわせると、タイトルどおり「統計」と「心理学」がミックスされたものの見方、そして「仮説・検証」にあるといいます。これは発想法という捉え方もできますが、その本質は「商売」への嗅覚そのものであり、あらゆる業種業態に応用できる考え方です。

 身近な話題では、本年(2014年)4月から消費税率が8パーセントへ引き上げられ、その影響で消費の落ち込みが懸念されています。そして消費税が上がる分、売り手側は値段を安く(または維持)する方向に発想しがちです。それに対して、鈴木氏は財布の紐を緩めるには、より上質な商品を提供するという発想に切り替えるべきである、と述べています。

 このような鈴木氏の思考・発想の原点、心理統計術(データから顧客の志向を読み解く)、組織づくり、現場への浸透といったテーマについて、本書は綿密なインタビューによって得られた「59の金言(鈴木氏の言葉)」に沿ってわかりやすく整理されています。数学的な意味での統計学の解説書ではありませんが、氾濫するデータから将来を見抜く力と、そしてそれ以上に商売やビジネスに対する嗅覚を磨くことができる良書です。

著者:勝見 明(カツミ アキラ)
 東京大学教養学部中退後、フリージャーナリストとして経済・社会分野を中心に執筆・公園活動を続ける。企業の組織運営・人材マネジメントに詳しい。主な著書に「鈴木敏文の「本当のようなウソを見抜く」』(日経ビジネス人文庫)、『鈴木敏文の「話し下手でも成功できる」』(プレジデント社)、『イノベーションの知恵』(日経BP社、共著)ほか多数。
第1章 鈴木敏文はどのように意思決定をしているのか?
第2章 半歩先を読む鈴木流「統計術」の極意を学ぶ
第3章 商売は「経済学」ではなく「心理学」で考えろ
第4章 鈴木流「場のつくり方」を学ぶ
第5章 現場の社員たちはどのように鈴木流経営学を実践しているか
鈴木敏文の金言集

要約ダイジェスト

発想の根本にある5つの視点

 鈴木流経営学の最大の特徴は、その発想や思考のユニークさにある。本人は「あたりまえのこと」と言うが、われわれ凡人は「都合のよいあたりまえ」を使い分けてしまうのに対し、鈴木氏は「顧客にとってのあたりまえ」に一貫してこだわり続けてきた。

 世の中には、われわれが「本当」のように思っていても、実は「ウソ」が含まれていることが数多くある。鈴木氏は世の中に蔓延する「本当のようなウソ」を素早く見抜き、「本当の本当」を突きつめ、「顧客の真実」を追究していくのだ。

では、鈴木氏はどのようなパターンの視点を持っているのか。度重なる取材で得た数々の「金言」をもとに類型化してみると、主に次の五パターンが浮かび上がってくる。

視点1.時間軸で変化の流れを大きく捉える視点

 われわれは世の中の短期的な動きに目を奪われやすい。これに対し鈴木氏は、世間の関心が目先の動きに集まれば集まるほど、中長期的な流れの中で現在を捉えようとするところがある。

金言:売れないのは景気のせいではない
 「ここにきて、急に競争が厳しくなったから売り上げが下がったと誰もが言うが、長い時間軸で歴史的に見れば、個人消費の落ち込みが構造的なものであり、ただの景気循環とはまったく違うことが分かる。

 消費の構造が今は大きく変わってしまったことに気づくと気づかないとでは、打つ手がまったく違ってくる」

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