- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書は、今後より深刻なデフレが到来すると予測する著者が、日本経済再生の処方箋を明快に述べた一冊だ。著者がいま着手すればまだ間に合うという「日本人の勝算」とは、「最低賃金の引上げ」による生産性向上、「高付加価値・高所得経済」への転換だ。一読すれば、最新のデータをもとに論理的に導かれる結論に納得せざるを得ないだろう。
著者のデービッド・アトキンソン氏は日本在住 30年の元ゴールドマン・サックスの伝説的アナリストで、現在は文化財の修復を請け負う企業を経営し、日本政府観光局特別顧問も務める人物。中小企業の統合の推進など経営者には耳が痛い部分もある内容だが、日本の未来を担うすべてのビジネスパーソンにご一読いただきたい。
小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住30年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。
『デービッド・アトキンソン 新・観光立国論』(山本七平賞、不動産協会賞受賞)『新・所得倍増論』『新・生産性立国論』(東洋経済新報社)など著書多数。2016年に『財界』「経営者賞」、2017年に「日英協会賞」受賞。
第2章 資本主義をアップデートせよ——「高付加価値・高所得経済」への転換
第3章 海外市場を目指せ——日本は「輸出できるもの」の宝庫だ
第4章 企業規模を拡大せよ——「日本人の底力」は大企業でこそ生きる
第5章 最低賃金を引き上げよ——「正当な評価」は人を動かす
第6章 生産性を高めよ——日本は「賃上げショック」で生まれ変わる
第7章 人材育成トレーニングを「強制」せよ——「大人の学び」は制度で増やせる
要約ダイジェスト
人口減少を直視せよ
日本では、これから、人類史上かつてない急激なスピードと規模で、人口減少と高齢化が進む。今すぐにでも対応を始めないと、日本は近い将来、三流先進国に成り下がることは確実だ。しかし国内の議論を聞いていると、あたかも今までの仕組みを微調整して対応すればなんとかなるという、その場しのぎで甘い印象しか伝わってこない。
例えば、消費税率の引き上げなど、小手先の微調整の典型だ。なぜなら日本の税収が少ないのは、日本人の所得が先進国最低水準で、それに伴って消費が少ないからだ。消費を増やすために不可欠な所得をいかにして上げるかが、この問題の根本の議論であるべきで、それに比べたらたった2%の税率引き上げなど、些末な話でしかないのだ。
たしかにアベノミクスによって、円高が是正され、株価も上昇し、日本経済は快方に向かっているように映る。しかし、今の状態は一時的に成果が出ている踊り場のようなものだ。私は、経済政策を大きく変えなければ、今後これまで以上に深刻なデフレが襲ってくると分析する。
その需要サイドの要因の1つは高齢化、もう1つは言うまでもなく人口の激減だ。世界的に見ても、人類は高齢化に向かっているが、ほとんどの先進国では人口が減少しない。アメリカは 2060年までに、人口が 36.1%増えるし、日本を除く G7は 14.9%増。韓国も人口が減って大変だと言われるが、それでも 5.6%減。一方の日本は 32.1%減で、まったく次元が違う。
海外の分析をまとめると、人口減少はそれだけで強烈なデフレ要因で、人口減少のほうが大きな影響を及ぼすものの、少子高齢化もデフレ要因になる。日本の人口動態は、ほとんど最悪の組み合わせに近いのだ。
日本ではこれから人口が減るので、学校、美容室、食料品、車、住宅など、人間の数に依存するモノとサービスの需要が減る。該当市場にある企業のもっとも安易な生き残り戦略は、価格を下げて他の企業の体力を奪い、倒産に追い込むことだ。
だがこの戦略を実行するには、企業はまず利益を削らなくてはならず、労働者にしわ寄せが回る。それは、非正規の増加、ボーナスの削減、サービス残業の増加など、ここ何十年日本で行われてきたことそのものだ。実は、労働分配率の低下も大きなデフレ要因であり、