- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書では、そうした人文科学的知見に根差した実践的な知の技法「センスメイキング」から洞察を得る手法を、具体的な事例を挙げて解説。同時に、STEM(科学・技術・工学・数学)やアルゴリズムに偏重した「シリコンバレー」的思考に警鐘を鳴らし、哲学や歴史学、社会学や文学といった人文科学の復権を説いている。
著者は人間科学を基盤とした戦略コンサルティング会社の創業者であるが、データやアルゴリズムを一概に否定しているわけではなく、バランスを欠いた現在の状況の危うさを指摘している。自身がもっぱら文系人間、あるいは逆に理系偏重型であるという自覚のある方、現場感や直感、人間力に磨きをかけたい方などはぜひご一読いただきたい。
ReDアソシエーツ創業者、同社ニューヨーク支社ディレクター。ReDは人間科学を基盤とした戦略コンサルティング会社として、文化人類学、社会学、歴史学、哲学の専門家を揃えている。マスビアウはコペンハーゲンとロンドンで哲学、政治学を専攻。ロンドン大学で修士号取得。現在、ニューヨークシティ在住。
訳者:斎藤栄一郎(Saito Eiichiro)
翻訳家・ライター。山梨県生まれ。早稲田大学卒。主な訳書に『1日1つ、なしとげる』、『イーロン・マスク 未来を創る男』、『SMARTCUTS』、『ビッグデータの正体 情報の産業革命が世界のすべてを変える』(以上講談社)『小売再生―リアル店舗はメディアになる』、『TIME TALENT ENERGY』(以上プレジデント社)『フランク・ロイド・ライト最新建築ガイド』『テレンス・コンラン MY LIFE INDESIGN』(以上エクスナレッジ)『マスタースイッチ』(飛鳥新社)など。
序 ヒューマン・ファクター
第一章 世界を理解する
第二章 シリコンバレーという心理状態
第三章 「個人」ではなく「文化」を
第四章 単なる「薄いデータ」ではなく「厚いデータ」を
第五章 「動物園」ではなく「サバンナ」を
第六章 「生産」ではなく「創造性」を
第七章 「GPS」ではなく「北極星」を
第八章 人は何のために存在するのか
要約ダイジェスト
センスメイキングとは何か
今や人々は、STEM(科学・技術・工学・数学)や「ビッグデータ」からの抽象化など理系の知識一辺倒になっており、現実を説明するほかの枠組みが絶滅寸前の状況にある。その揺り戻しで企業や政府、各種機関は重大な損失を被っている。
世の中を数字やモデルだけで捉えるのをやめて、真実の姿として捉えるべきだ。偽物の抽象化の世界を追いかけていると、人間の世界を感じ取る力を完全に失う重大な危険をはらんでいる。STEM、つまり理系の知識が不要と言っているのではない。だが、人文科学のたしなみがあれば、自分とは違う世界のありようを想像できるようになる。
そして、自分とは違う世界にしっかりと思いを巡らせることができれば、回りまわって自分自身が身を置く世界についても、もっと鋭い視点が持てるようになる。各種モデルや金融イノベーションが現実から乖離したときにも、気づくことができるようになる。
筆者の言う「センスメイキング」とは、文化的探求という昔からある行為を指している。センスメイキングは人間の知を生かし、「意味のある違い」に対する感受性を高める。アルゴリズム思考の正反対の概念と捉えてもいいだろう。センスメイキングが具体性を伴うのに対し、アルゴリズム思考は、固有性を削ぎ落とされた情報が集まる無機質な空間に存在する。
センスメイキングの5原則
近道は存在しないが、最も重要な洞察に近づくための基本原則は以下の5つだ。この基本原則の土台となるのは、人文科学を構成する豊富な理論や方法論である。
1.「個人」ではなく「文化」を
アルゴリズム思考では、香水の瓶には何ミリグラムの液体が入っている、といった視点で定義付けをする。一方、センスメイキングでは、あらゆるものを相対的な関係性で捉える。だから香水は、