- 本書の概要
- 著者プロフィール
正富氏はなぜこんなにも多くのロングセラー商品を生み出せたのか。本書では「人間のつくったもので、無欠点のものはない」「消費者に2度、感動を与えなくてはならない」といった正富氏自身の発言や関係者の証言、実際の事例、最新の経営理論をもとに、正富氏独自の発想と行動モデルをパターン化して解説する。
一読すれば、高いレベルでマーケティングとイノベーションを体現する氏の開発哲学が、顧客体験や問題発見を重視する「デザイン思考」を先取りするものであったことに驚かされるだろう。アイデア発想やマーケティング視点を強化したい製品・事業開発担当者はもちろん、組織のイノベーション不足に悩む経営層もぜひご一読いただきたい。
日本経済新聞社人材教育事業担当付。ウィルソン・ラーニングワールドワイド顧問。2018年10月から日経イベント・プロ専務取締役。1985年日本経済新聞社入社。東京本社流通経済部記者として流通業界や企業のマーケティングを取材。同部次長、日経ビジネス副編集長、産業部編集委員、横浜支局長などを経て、2015年人材教育事業局長。2017~18年ウィルソン・ラーニングワールドワイド専務取締役。
著書に「ドキュメントそごう解体」 (共著、日本経済新聞出版社)、「ヒットの経営学」(日本経済新聞出版社)など。
著者:廣田 章光(Hirota Akimitsu)※第2部
近畿大学経営学部商学科教授。博士(商学)。神戸市産業振興財団理事、日本マーケティング学会理事、大阪商工会議所スポーツ産業振興委員会副委員長。1999年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。アシックスでスポーツ・健康分野での研究開発、新規事業開発、経営企画、アパレル事業部のマーケティング部門設立を担当。2008年から現職。2013~14年スタンフォード大学客員教授。2014年カリフォルニア大学ロングビーチ校客員研究員。専攻はマーケティング論、製品イノベーション論、デザイン思考。
著書に「1からのマーケティング・デザイン」「1からのマーケティング」(共編著、碩学舎)、「中小企業マーケティングの構図」(共編著、同文館)など。
第1部 「ことば」が語るヒットの秘密
1章 「もういっぺん買おうと思われてこそ」が原点
2章 売れる開発「大衆が恋人」合言葉に
3章 「きっと欠点はある」とことん観察
4章 「見て感動、使って感動」で大満足
第2部 「パターン・ランゲージ」で読み解く正富思考
1章 思考・行動を理解するためのアプローチ
2章 他者からの学び
3章 実践学習のパターン
4章 問題発見のパターン
5章 継承のパターン
おわりに
あとがき
参考文献
要約ダイジェスト
創造的思考の旅路へ
「ごきぶりホイホイ」は手強いゴキブリを粘着剤で捕まえ、目に触れることなく紙の箱ごと捨てられるアイデアで、1973年に発売されるや爆発的な人気を呼んだ。この大ヒット商品を生み出したのが、アース製薬元社長、大塚正富氏である。
炭酸入り栄養ドリンクの先駆け「オロナミンC」、火を使わない新しい発想の加熱蒸散殺虫剤「アースレッド」、行灯から着想を得た日本初の液体式蚊取り器「アースノーマット」なども自身が開発に携わり、あるいは開発陣の先頭に立って大ヒットを飛ばした商品で、いずれも超ロングセラーとなっている。
正富氏の研究者としての能力を引き出しただけでなく、商品を通じて大衆の心をつかめてこそ技術は生きることを教えてくれたのは、後に大塚グループの総帥となった長兄の正士氏だった。兄は常にユーザーの目線に立ち、販売促進策でも過去の慣習や常識にとらわれない大胆な手法を繰り出して、消費者が名前を真っ先に思い浮かべる商品をつくろうとした。
オロナイン軟膏では、何でも効くという万能薬主義で他社製品と差異化し、改良品を小学校の児童に無料で配布するという前代未聞の策に打って出た。オロナミンCの開発では、牛乳が1本 12円、「コカ・コーラ」が 38円で売られていた時代に「これを1本 100円で売る」という兄の言葉で、当初、薬局で売ることができなかったピンチをチャンスに変えていく。
その経験から、大衆に支持される商品のマーケティング哲学を肌で吸収し、アース製薬の再建を命じられて同社に転じると、社長兼開発責任者としてその期待に応えた。このように形成された正富氏の売れる商品づくりの考え方は、マーケティングでいう STP(セグメンテーション、ターゲティング、ポジショニング)とリサーチを徹底したものとは異なる。
正富氏のアプローチは、まず競合メーカーの商品の弱点、欠点を顧客の視点で徹底的に探索する。一方で、害虫の生態や人々の日常の暮らしを徹底的に観察して、解決するアイデアをユニークな組み合わせから見いだそうとする。アイデアは素早くプロトタイプにして実験を重ね、問題点を修正する。
さらに市場導入にあたっては、購入後に顧客が「あ、なるほど!捕れている」と価値を実感し、感動できるストーリーをつくる。これを実践していくことによって、