『巨大システム 失敗の本質―「組織の壊滅的失敗」を防ぐたった一つの方法』

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  • 目次
 通信ネットワークや電力網、交通システムなど、現代の生活は複雑かつ相互依存的な多くのシステムによって成り立っている。そして、そうしたシステムが予期せぬ出来事やヒューマンエラーによって簡単に崩壊してしまうことも近年明らかになってきた。本書は、組織を含む複雑なシステムの壊滅的失敗にメスを入れ、その原因と対策を示した一冊だ。

 本書では金融危機や原子力災害、航空機事故や企業不正、SNSの炎上など、様々な失敗事例を取り上げる。そこから見えてきた法則は、「複雑性」と「密結合」によって、小さな失敗が全体に波及し、システムを壊滅させるというものだ。こうした危険は日常生活にも潜んでおり、完璧な対策はないが、失敗の可能性を減らす手法は数多くあるのだ。

 企業経営からプライベートまで、組織の幹部層はぜひご一読いただきたい。著者は企業の危機管理コンサルティング会社社長とトロント大学ロートマン・スクール・オブ・マネジメント准教授のコンビ。本書はフィナンシャル・タイムズ 2018年ベストビジネス書に選出され、35歳以下の俊英に贈られる「ブラッケン・バウアー賞」も受賞している。

著者:クリス・クリアフィールド(Chris Clearfield)
 企業が破滅的な失敗を避けるための危機管理方法をコンサルティングしているシステム・ロジック社社長。ハーバード大学では物理学と生物学を学んだ。前職はデリバティブのトレーダーで、ニューヨーク、香港、東京で勤務。商業飛行のパイロット資格も所有。「複雑性と失敗」について、『ガーディアン』『フォーブス』などに寄稿している。

著者:アンドラーシュ・ティルシック(Andras Tilcsik)
 トロント大学ロートマン・スクール・オブ・マネジメント准教授。専門は経営戦略論。アメリカ社会学会から数々の表彰を受けている気鋭の研究者の一人。世界の40歳未満で経営戦略を教える40人の教授の一人として、そして組織の未来を形作る可能性が最も高い30人の経営思想家の一人として認められている。また国連は、災害リスク管理について、ビジネススクールでの最善のコースとして、彼の「組織的失敗」に関するコースを挙げている。

訳者:櫻井 祐子(Sakurai Yuko)
 翻訳家。京都大学経済学部卒業、オックスフォード大学大学院で経営学修士号を取得。訳書に『NETFLIXの最強人事戦略』(光文社)、『劣化国家』(東洋経済新報社)、『ハーバード医学教授が教える健康の正解』 (ダイヤモンド社)、『ずる』『マイケル・ポーターの競争戦略』『アリエリー教授の「行動経済学」入門 お金篇』(いずれも早川書房)、『イノベーションへの解』(翔泳社)、『Who Gets What マッチメイキングとマーケットデザインの新しい経済学』 (日本経済新聞出版社)、『地政学の逆襲』(朝日新聞出版)など多数。

プロローグ いつもどこかで「メルトダウン」
<第1部 失敗はどこにでもある>
第1章 デンジャーゾーンを生み出す複雑系と密結合
第2章 残酷な「複雑性の罠」が支配するシステム
第3章 ハッキング、詐欺、フェイクニュース
<第2部 複雑性を克服する>
第4章 デンジャーゾーンの脱出口
第5章 複雑系には単純なツール
第6章 災いの前兆を見抜く
第7章 少数意見を解剖する
第8章 多様性という「減速帯」
第9章 リスクを引き下げる「悪魔の代弁者」
第10章 サプライズも仕事の一環
エピローグ メルトダウンの黄金時代

要約ダイジェスト

複雑系と線形系―システムの構成要素

 社会学者のチャールズ・ペローと学生たちは、航空機墜落事故から化学工場爆発までの数百の事故を徹底調査し、同じパターンが見られることを発見した。システムの構成要素間に思いがけない相互作用が発生し、小さな失敗が予期せぬ方法で組み合わさっていたのだ。そして人々は何が起こっているかを理解していなかった。

 ペローの立てた理論は、システムがこの種の失敗に陥りやすいかどうかは、2つの変数によって決まる、というものだ。1つめの変数は、システムの構成要素間の相互作用と関係がある。ペローは構成要素が相互作用する方法によって、システムを線形系(リニアシステム)と複雑系(コンプレックスシステム)の2つに大別した。

 線形系の典型例は、自動車工場の組立ラインだ。そこでは容易に予測可能な順序でものごとが進行する。ステーションに不具合が生じても、何が故障したのかはすぐわかり、どんな影響がおよぶかも一目瞭然だ。

 複雑系(コンプレックスシステム)の典型例は、原子力発電所だ。複雑系では構成要素の多くが分かちがたく結びつき、相互に影響がおよびやすい。一見無関係な要素が間接的につながり、サブシステムがシステムの多くの構成要素と結びついている場合が多く、何か不具合が発生すると、あちこちで問題が生じ、何が起こっているかを把握するのが難しい。

 さらに困ったことに、複雑系内で起こっている多くのことは肉眼では見えず、ほとんどの場合、間接的な指標に頼ることになる。原子力発電所では、圧力計や水量計といった、小さな隙間から垣間見た部分を組み合わせて全体像を理解するしかない。そのため見立てを誤りやすい。

 相互作用が複雑な場合、小さな変化が大きな影響をおよぼしやすい。スリーマイル島では、放射能を含まない1カップの水のせいで、放射能を含む数千リットルの冷却水が失われた。まさに「ブラジルで1匹の蝶が羽ばたくとテキサスで竜巻が起こる」という、カオス理論のバタフライ効果だ。

システムの失敗を生み出す複雑系と密結合

 ペローの理論の2つめの変数は、システム内のスラック(緩み)の大きさと関係がある。彼は工学用語の密結合(タイト・カップリング)と疎結合(ルース・カップリング)を借りてこれを表した。システムが密に結合しているとき、

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