『サピエンス異変―新たな時代「人新世」の衝撃』
(ヴァイバー・クリガン=リード/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 人類の身体は、数百万年の間ゆっくりと進化してきたが、産業革命以降の環境の変化によって急速な変化が起こっているという。特にここ数十年のデジタル革命による変化は急速で、私たちの身体は適応しきれずに様々な障害を起こしている。オフィスワークの増加による腰痛や、カロリーの過剰摂取による糖尿病患者の増加はそのわかりやすい例だ。

 本書では、ヒトの生活と身体の進化の歴史を紐解き、静かに進行する恐ろしい変化と未来を明らかにする。キーワードは近く国際地質科学連合が正式認定予定の新たな地質年代「人新世(じんしんせい)」だ。人間が地球環境に大きな変化を及ぼした時代を意味するが、それによって人類の肉体もつくり変えられようとしているのだ。

 本書は現代社会に適応するには、私たちがつくり上げた世界を直視し、労働のあり方や生活を徹底的に見直すべきだと提言する。英フィナンシャル・タイムズ紙「2018年ベストブック」選出の全英ベストセラーであり、人類史とともに、人生100年時代の健康や働き方、QOLについても考えさせられる刺激的な一冊だ。著者は英国ケント大学准教授。

著者:ヴァイバー・クリガン=リード(Vybarr Cregan-Reid)
 英ケント大学准教授。専門は環境人文学と19世紀英文学だが、扱うテーマは人類史、古典文学、健康、環境問題まで幅広い。ケント大学の名物教授として学生に絶大な人気をほこり、2015年には同大の「ベスト・ティーチャー賞」を受賞。ガーディアン紙、インディペンデント紙、ワシントン・ポスト紙などに寄稿多数。
 人類が生み出した文明の速度に、人類の進化が追いついていない問題を大胆に提起した本書『サピエンス異変』は、フィナンシャル・タイムズ紙の2018年ベストブックに選出され、2019年3月にBBCワールドサービスで番組化(全3回)が決定しているなど、大きな反響を呼んでいる。

訳者:水谷 淳(Mizutani Jun)
 翻訳家。東京大学理学部卒業、同大学院修了。訳書にバラット『人工知能 人類最悪にして最後の発明』、チャム&ホワイトソン『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない』(以上、ダイヤモンド社)、アル=カリーリ&マクファテン『量子力学で生命の謎を解く』(SBクリエイティブ)、ブキャナン『歴史は「べき乗則」で動く』(早川書房)、ムロディナウ『この世界を知るための 人類と科学の400万年史』(河出書房新社)他多数。

訳者:鍛原 多惠子(Kajihara Taeko)
 翻訳家。米国フロリダ州ニューカレッジ卒業(哲学・人類学専攻)。訳書にコルバート『6度目の大絶滅』(NHK出版)、ニコレリス『越境する脳』、ワイナー『寿命1000年』、ソネンバーグ&ソネンバーグ『腸科学』(以上、早川書房)、リドレー『繁栄』『進化は万能である』(共訳、早川書房)、アル=カリーリ『サイエンス・ネクスト』(河出書房新社)他多数。

プロローグ 私たちの身体に異変が起きている
第Ⅰ部 紀元前800万年~紀元前3万年 すべては「足」からはじまった
 1章 ヒトは「移動」で進化した
 2章 「人新世」以前の身体
第Ⅱ部 紀元前3万年~西暦1700年 「移動」をやめた人類に何が起きたのか?
 3章 人類は「定住」に適応していない?
 4章 家畜は何を運んできたのか?
 5章 古代ギリシャ・ローマ人の警告
第Ⅲ部 1700年~1910年 身体は「経済」そのもの
 6章 腰が痛い!
 7章 大気汚染
第Ⅳ部 1910年~現在 動かなくなった人類に何が起きているのか?
 8章 身体は現代の食生活に追いついていない
第Ⅴ部 未来 ホモ・サピエンス・イネプトゥス
 9章 超人類への扉を開ける「手」
エピローグ
訳者あとがき

要約ダイジェスト

私たちの身体に異変が起きている

 現代生活は、氷水に飛びこむくらい、人体に緊張を強いる。人体はみずからを現代生活から守り、またそれに対応して変容させてきた。人類史上初めてなじみのない都会の環境に放りこまれた私たちの大脳辺縁系は、すさまじいまでの神経緊張にさらされている。

 私たちの外見と、私たちが動き、休み、眠り、考え、食べ、集まり、連絡し合うやり方は、ホモ・サピエンスが 30万年以上前にこの地上を初めて歩いたときから見ると、劇的な変化を遂げてきた。そして、自分たちの営みが環境に与えてきた甚大な影響にもとづいて命名された、人類史上で特異な時期を迎えようとしている。

 私たちは何という地質年代にいるのか?この質問には少なくとも1つの正しい答えがあるが、実はもう1つの別の答えもある。1つ目の答えは、約1万 1,700年前に最終氷期が終わったのちにはじまった「完新世」だ。それは地球史上約 10万年続いた氷期後に訪れた、比較的安定した温暖な時期である。

 2つ目の答えは「人新世」(アントロポセン)だ。この用語は「人間」を意味するギリシャ語(anthropos)と、「近年」または「新しい」を意味するギリシャ語(kainos)に由来する。人新世という言葉はまだあまり知られていないが、もうすぐ正式な地質年代として認められる予定になっている。

2009年、人新世の証拠を集める作業部会が立ち上げられ、作業部会は、地球、大気、海洋、野生生物が人間によって永遠に変化させられたことを示す圧倒的な証拠がある、と結論づけた。

 人類が狩猟採集から農耕への移行によって周辺環境との関係を大きく変えた結果、今度は人類の身体が変わりはじめた。人新世を生きる人類の身体はすでに変わり果てているが、それは進化のせいではなく、自分たちがつくり出した環境に対する身体の反応によるものだ。

 新たな科学的発見、新たなライフスタイル、労働パターンの変化、社会状況の変容、そのほか無数の変遷、改善、イノベーションによって、私たちが変えてきた環境もまた秘かに私たちを変えてきたのだ。

ヒトは「移動」で進化した

 古人類の運動パターンを知る最良の証拠は化石ではなく、2009年にケニアで発見された、約 150万年前にさかのぼるとされる足跡だ。足跡はヒトの足とよく似ていて、彼らがどのように動いたかをどの骨よりも雄弁に物語る。

 ホモ・エレクトスの歩きぶりと生体力学は現生人類に近く、

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