『なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?』
(岡崎 大輔/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 今、多くのビジネスパーソンや経営者の間で、「アート」が注目されている。それは、アート鑑賞によって問題解決能力や言語能力、考え抜く力などが鍛えられるからで、特に海外エリート層は、人生や仕事に役立てるために美術鑑賞を取り入れているという。ただし、漫然とアート作品を眺めているだけでは、そうした力は身につかない。

 そこで海外で取り入れられているのが、ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ(VTS)と呼ばれる鑑賞法だ。作品名や作者などの情報に頼らず、グループで様々な解釈を出し合い、鑑賞を深めていく方法である。本書では、VTSの進化版ともいえる「対話型鑑賞」のプロセスとポイントをわかりやすく解説する。

 著者は京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター 副所長で、企業や行政などに向け、対話型鑑賞教育プログラムの普及活動を行う人物。唯一の正解がないアート鑑賞は、「教わる」のではなく、「自ら考え、学ぶ」力をもたらしてくれる。不確実性の高い時代に必要な感性・センスや思考力を磨きたい方はぜひご一読いただきたい。

著者:岡崎 大輔(Okazaki Daisuke)
 京都造形芸術大学アート・コミュニケーション研究センター専任講師 副所長。阪急阪神ホールディングスグループの人事部門にて、グループ従業員の採用・人材育成担当を経た後、同センターに着任。対話を介した鑑賞教育プログラム「ACOP(Art Communication Project)」を、企業内人材育成・組織開発に応用する取り組みを行っている。企業、行政、NPOほか各組織を対象に、セルフラーニング、チームビルディング、ダイバーシティをテーマとした研修プログラムや組織開発ワークショップを多数開発・実施。
序章 なぜ、美術鑑賞が仕事に役立つのか?
1章 「作品の情報」に頼らずに鑑賞する
2章 じつは、私たちは「アート作品」を見ているようで見ていない?
3章 「アート作品」は「事実」と「解釈」を分けて鑑賞する
4章 「3つの問い」と「4つのプロセス」で鑑賞を深める
5章 【実践編】アート作品を鑑賞するときの8つの視点
終章 なぜ、新しい時代に「アート」が重要なのか?

要約ダイジェスト

世界のエリートがやっている人生と仕事が劇的に変わる美術鑑賞法

 いま、世界のエリートの間で美術鑑賞が広まっていて、日本でも近年、同じ流れが見られる。世界のエリートが実践している美術鑑賞法の1つが、ヴィジュアル・シンキング・ストラテジーズ(Visual Thinking Strategies※以降 VTS)である。

 VTSの大きな特徴は、鑑賞中に、作品名や作者名、解説文という、いわゆるキャプションに載っている情報を用いないことだ。そして、1つの作品あたりおおむね 10分以上、純粋に作品を見ることだけに費やす。

 MoMA(ニューヨーク近代美術館)で教育部部長を務め、VTSを考案したフィリップ・ヤノウィンは、作品の情報を用いない理由について、次のように述べている。「アート作品は文字に頼らない視覚的なもので、親しみやすい部分と謎めいた部分をあわせ持っている。また、解釈が開かれており、幅広い層に訴えかけるテーマを扱っている。さらに、多様かつ複雑で、概念と感情の両方を喚起するという特性を持っている」。

 「解釈が開かれている」とは、捉え方は1つではなく、複数あるという意味だ。要は、「あなたなりの見方をしてみよう」ということである。このようなアート作品の特性を活かして、VTSでは、「誰によっていつ制作されたのか?」「何のために制作されたのか?」といった、「作品の背景」を問わないことで、鑑賞の自由度をより上げようとしているのだ。

 VTSが大切にしているのは、「作品そのものへの理解」だけではなく、作品を見て自分が何を感じ、何を考えるかである。VTSを実践することで、美術への造詣を深められるだけでなく、観察力、批判的思考力、言語能力などの複合的な能力を伸ばす効果もあることが、米国の教育現場で実証されている。

「作品の情報」に頼らずに鑑賞する

 VTSは、一般に「対話型鑑賞」と呼ばれる鑑賞法を行う。対話型鑑賞とは、グループで1つのアート作品を見ながら、それぞれの発見や感想、疑問などを話し合う鑑賞法である。グループで会話しながら鑑賞することで、より多面的に作品から意味が読み取れる、つまり、鑑賞者間の相乗効果が起こるのだ。

 実際の研修では、アーティストが制作した実際の作品のことを「アート作品」と呼び、「アート」という言葉と区別する。アート作品は基本的にモノだが、「アート」はアート作品と鑑賞者の間に起こるコミュニケーションで、モノではなくコトだ。

 「アート」には、「こう感じなければならない」「こう考えなければならない」という“正解”はない。「作者の制作意図を理解しようと努めることが美術鑑賞である」という考え方もあるが、どちらが正解ということではなく、あくまでアプローチの仕方が違うということだ。

 アート作品には平易と不可解の両方を感じさせる要素が含まれている。そのことが見る人の興味をそそり、様々な「問い」を沸き上がらせる。つまり、アート作品は私たちに「答え」ではなく「問い」を投げかけている。だからこうした作品を見ることで、

続きを読むには会員登録が必要です。

© 2023 ZENBOOKS,Inc. All Rights Reserved.
要約記事は出版社または著作者から適法に許諾を取得し、作成・掲載しています。本記事の知的所有権は株式会社ゼンブックスに帰属し、本記事を無断で複製、配布、譲渡することは固く禁じます

特集