『評伝 小嶋千鶴子―イオンを創った女 』
(東海友和/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 戦後、三重県四日市の呉服店「岡田屋」は、ジャスコ、そして流通業界で日本を代表するイオングループへと発展した。創業家 岡田卓也氏(イオングループ名誉会長)の実姉として人事・組織戦略を担当し、その飛躍の礎を築いたのが小嶋千鶴子氏である。本書は裏方に徹した同氏の人事・経営手腕を埋もれさせるのは惜しいと出版された初の評伝だ。

 本書の元となったのは、イオングループ現役社員にのみ配布される小嶋氏の自伝であり、これまで部外者が知る事ができなかった彼女の経営・人事戦略や人生哲学が描かれている。戦前から戦中、戦後、高度経済成長期と、激動の時代を生き抜いてきたその生き様から、変化の速い現代にも活かせる経営の知恵や人生への情熱を学び取れるはずだ。

 著者は岡田屋の人事教育部で小嶋氏の下で長く薫陶を受け、後に経営コンサルタントとして独立。小嶋氏の行動をつぶさに観察し、言葉の真意を直接聞いたことも多々あったという著者が、底なしに深いと評する小嶋氏の人事・経営の真髄をぜひ感じていただきたい。経営層はもちろん、組織で働くビジネスパーソンにも多くの気づきがあるだろう。

著者:東海 友和(Toukai Tomokazu)
 三重県生まれ。岡田屋(現イオン株式会社)にて人事教育を中心に総務・営業・店舗開発・新規事業・経営監査などを経て、創業者小嶋千鶴子氏の私設美術館の設立にかかわる。美術館の運営責任者として数々の企画展をプロデュース、後に公益財団法人岡田文化財団の事務局長を務める。その後独立して現在、株式会社東和コンサルティングの代表取締役、公益法人・一般企業のマネジメントと人と組織を中心にコンサル活動をしている。特に永年創業経営者に師事した経験から得た、企業経営の真髄をベースにした、経営と現場がわかるディープ・ゼネラリストをめざし活動を続けている。モットーは「日計足らず、年計余りあり」。
 著書に『イオン人本主義の成長経営哲学』ソニー・マガジンズ、『商業基礎講座』(全5巻)(非売品、中小企業庁所管の株式会社全国商店街支援センターからの依頼で執筆した商店経営者のためのテキスト)がある。
第1章 小嶋千鶴子を形成したもの―その生い立ちと試練
第2章 善く生きるということ―小嶋千鶴子の人生哲学
第3章 トップと幹部に求め続けたもの―小嶋千鶴子の経営哲学
第4章 人が組織をつくる―小嶋千鶴子の人事哲学
第5章 自立・自律して生きるための処方箋
終 章 いま、なぜ「小嶋千鶴子」なのか?

要約ダイジェスト

現場は宝の山

 「問題あらへんか?」、小嶋が店巡回や従業員と会ったときの一声だ。とにかく「厳しい人」というのが小嶋千鶴子の印象であるが、この言葉かけで、困っていること、お客様からの苦情、商品の品切れ、上司・部下、私的なことなど、何か問題を抱えていないか聞き出す。

 そして手を差し伸べようとする。細やかな配慮、このときはまさに慈母である。従業員に真面目な「関心」を示すから、たとえそれで叱られたとしても当人は「見ていてくれている」という安心感を抱く。

 この「問題あらへんか?」には、多くの意味がある。1つは、現場の問題への意識・関心を探ること。2つ目は、その従業員の状況を把握をすること。そして、3つ目がその従業員に当事者意識をもたせるというものだ。

 小嶋は根っからの経営者であると同時に商人である。商人は「お客様」と直接の接点をもつ店の設備・商品・従業員すべてにおいて「店は客のためにある」が実行されていなくてはならない。したがって「店」には問題もあり宝もあることを熟知している。

 質問された従業員は安易に「問題ありません」と応えようものなら大変だ。ああそうかでは済まない。「(問題が)ないことはない。この社員は問題意識が低い」となる。そして、次から次と質問攻めになり、つい本音を言ってしまう。そして問題の核心にせまる。

 一般の従業員であっても、会社の問題を自分の問題として捉え、どう解決を図っていくかを考えるきっかけになる。たったひと言でそれらすべてを果たすのが、

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