- 本書の概要
- 著者プロフィール
このように世界で進むキャッシュレス化とデジタル通貨の波は日本の経済や金融にどのような影響を与えるのか。本書では、元日銀審議委員で現在野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストを務める著者が、金融デジタル化の現状と未来、日本を含めた世界の中央銀行やフィンテック企業の動向をわかりやすく解説する。
著者によれば、手数料の減少など銀行が抱えるジレンマ、日本の高い現金流通額などから、今すぐにデジタル通貨が浸透することはなさそうだ。だが、それも世界のトレンド次第であることもわかる。特に大きな影響を受けるのは民間銀行だが、資金の借り手にとっても他人事ではない話題だ。金融関係者に限らず、経営層はぜひご一読いただきたい。
1963年生まれ。1987年、早稲田大学政治経済学部を卒業、同年野村総合研究所入社。一貫して経済調査畑を歩む。1990年野村総合研究所ドイツ、1996年野村総合研究所アメリカで欧米の経済分析を担当。2004年、野村證券に転籍し、2007年経済調査部長。2012年7月~2017年7月、日本銀行政策委員会審議委員。現在、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト。著書に『異次元緩和の真実』(日本経済新聞出版社)『金融政策の全論点―日銀審議委員5年間の記録』』(東洋経済新報社)。
第1章 悩める巨人―挑戦がもたらす矛盾
第2章 仮想通貨は決済手段となれるか
第3章 スマートフォン決済は日本で広まるか?
第4章 現金の異様な存在感
第5章 大リストラ時代を迎えた銀行
第6章 仮想通貨投資の行方
第7章 世界の中央銀行のフィンテック対応
第8章 中央銀行デジタル通貨の可能性
終 章 日本の金融にデジタル革命は起こるのか
要約ダイジェスト
動き出したメガバンク
今、日本では、デジタル通貨の覇権争いが始まろうとしている。ピットコインに代表される仮想通貨と、民間銀行が発行を目指している MUFGコイン、Jコインなどの独自のデジタル通貨に、中央銀行が発行する中央銀行デジタル通貨の3つの覇権争いだ。
三菱東京 UFJ銀行(現三菱 UFJ銀行)は 2017年5月、独自のデジタル通貨 MUFGコインの実証実験を開始した。同行がデジタル通貨を発行し、スマートフォンを使って小売店や自動販売機、個人間の金銭授受に利用できるサービスだ。
一方、みずほフィナンシャルグループもスマートフォン決済を想定したデジタル通貨発行の準備を進めている。ゆうちょ銀行や数十行の地方銀行と提携して、Jコインと名付けるデジタル通貨を 2020年中に発行することを目指しているのだ。
デジタル通貨発行の狙いは、決済分野を中心とした顧客利便性の向上だとされている。一方、世界では技術力とアイデアにモノをいわせて、決済業務、預金業務、貸出業務など従来は銀行が一手に担ってきた分野に参入するフィンテック企業が続々と登場している。
フィンテックの利用で日本が諸外国の後塵を拝している原因の一つは、金融業態を縦割りで規制してきた日本の金融法制にある。しかし、この金融法制は、異例とも思える速さで見直されつつある。金融庁は、フィンテックを利用したサービスの普及を通じて人々の利便性を高めるための規制緩和へと方針を変えたのである。
銀行が直面するジレンマ
欧米、殊にアメリカにおけるフィンテックは、銀行と敵対する形、いわば破壊者として成長してきた。一方、日本には反銀行の機運はなく、メガバンクのフィンテックヘの初期の対応は、融和的であったといえる。しかし、初期対応段階から、具体的なビジネス展開を加速する時期に入った今、銀行、とりわけメガバンクは深刻なジレンマを抱え込んでいるようにみえる。
フィンテック企業は銀行システムを利用して利便性の高いサービスを顧客に提供しており、フィンテック企業が顧客の送金や決済を代行した手数料は銀行に支払われるから、銀行の利益にもなる。しかし、それでは顧客との接点はフィンテック企業に奪われてしまい、