- 本書の概要
- 著者プロフィール
著者によれば、マクロンは飛びぬけた共感力で多くの年長者から気に入られ、複数の代父(パラン)と呼ばれるメンターの力を借りて人脈を広げていった。しかし彼は、誰ともべったりとした関係にはならず、とらえどころがないという印象も持たれている。謎めいた部分を抱えながらも、颯爽と登場して大統領になった不思議な人物なのだ。
著者はフランス「ル・フィガロ」紙のベテラン政治記者。原著は大統領就任前に出版されたが、本書では就任後のマクロンの姿も「追記」の形で知ることができる。「ポピュリスト(大衆迎合主義者)」とも称され、さまざまな政治勢力を敵に回すなど就任当時とは異なる状況にあると分析されるマクロンは、今後どうふるまうのか。日本にも大きな影響を及ぼす欧州政治・経済を知るためにも押さえておきたい一冊だ。
1963年生まれ。パリ政治学院卒業。フランス「ル・フィガロ」紙のベテラン政治記者。1991年から同紙でジャーナリストとしての活動を始め、テレビ「France 2」「France 5」「カナル・プリュス」、ラジオ、雑誌、書籍等で積極的に活動を展開する。本書は4冊目の著書となる。
翻訳:加藤かおり(Kato Kaori)
国際基督教大学教養学部社会科学科卒業。訳書に、ギ・ソルマン『幻想の帝国―中国の声なき声』(駿河台出版社、共訳)、ジャック・アタリ『いま、目の前で起きていることの意味について―行動する33の知性』(早川書房、共訳)、ガエル・ファイユ『ちいさな国で』(早川書房)など。
第1章 “神の子”
第2章 マニュとマネット、「愛するのはあなただけ」
第3章 生きること、愛すること
第4章 生涯唯一の女性、ブリジット
第5章 エマニュエル・マクロンと文学
第6章 人を魅了する力
第7章 代父と兄たち
第8章 “システムの申し子”の家族風景
第9章 社交界とセレブたちとの交流
第10章 政界の未確認飛行物体(UFO)
エピローグ
追記 若き成功者としての大統領
要約ダイジェスト
多面性のある野心家
作家、ミシェル・ウエルベックは 2017年1月、エマニュエル・マクロンについて尋ねられ、当惑した表情で答えた。「彼にインタビューしようとしたんだが…。口のうまいやつから何かを、何か真実を引き出すのは、はっきりいって至難の業だ」。
ウエルベックの言葉は核心をついている。人好きのする笑顔と、いかにもエリート校で学んだ高級官僚といったスマートな外見をもつマクロンは、どうにも捉えどころがない、多面性のある人物なのだ。実のところ、誰も彼のことをよく知らない。友人もほとんどいない。
妻ブリジットは、「エマニュエルをみんなは必要としているけれど、彼は誰をも必要としていません。誰も彼の領域に立ち入ることはできません。彼は他人とのあいだに距離を置こうとするのです」と説明する。
経済・産業・デジタル大臣(以下:経済大臣)を務めたこともあるマクロンは、これほどスポットライトを浴びながらも謎の部分、隠された何かをもっている。これまでの歩みのすべてが明白な野心のために利用されているかにも見える。
2012年に大統領府の副事務総長に抜擢されたときは爽やかで感じのよい、落ち着いたテクノクラート然とした顔で写真に収まり、欧州の超一流プライベートバンクであるロチルド(英名ロスチャイルド)系投資銀行に勤めていた経歴をもつマクロンの名は、すぐに権力の中枢やメディア関係者のあいだでささやかれるようになった。
マクロンはじっくりと体制(システム)を観察し、周囲の人々にとって必要不可欠な存在になった。だが、誰ともべったり親密な関係にはならなかった。いざというときに、うまくするりと抜け出られるように。そして大胆にもシステムに反旗を掲げ、次期大統領選に出馬した。
敬愛する祖母
特別な絆で結ばれた祖母の厳しい愛に育まれ、まずはその祖母の、次いで妻ブリジットの彼を見つめるまなざしに力と自信を得たこの青年は、颯爽と人生を歩みながら徐々に野心をあらわにしてきた。人妻で3人の子をもつ24歳年上のブリジットを“手に入れる”ことのできた自分には、フランスを“手に入れる”ことも可能だと国民に刷り込みながら。
2017年2月4日、マクロンは大勢の熱狂した支持者たちを前に、祖母に対する愛慕の情を表した。メディアに私生活を明かす気はないと豪語する彼は、2013年に他界した祖母についてだけはしばしば言及し、自著の中で「祖母を思い出さない日は、そのまなざしを探さない日は一日もない」と記している。祖母のまなざしは励ましと承認と愛に満ちていて、