『構想力の方法論』
(紺野登、野中郁次郎/著)

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  • 著者プロフィール
  • 目次
 日本人は大きな構想を描いたり、イノベーションを起こすのが苦手であるとよく言われる。しかし複雑性を増す時代背景のなか、自ら未来を描き形にしていく構想力への社会的要請は高まっている。しかも今までのように政府や大企業だけが構想を描くことには限界があり、今後は、一地域や個人などにも大きな構想を描く力が求められているのだ。

 そこで本書では、構想力とは何かといった議論から、構想をつくるための3つのプロセスなどを詳細に解説。ビッグピクチャーを描くという点でグーグル、アマゾンなど海外企業大手に大きく後れを取っている日本企業が構想力を手に入れるためには、今までとは全く違う概念で物事を見たり、体験しなければならないと著者らは力説する。その習得は一朝一夕にできるものではないが、本書はそのための本質的な処方箋と言えるだろう。

 著者は博報堂のマーケティング・ディレクターを経て、現在 KIRO(知識イノベーション研究所)代表を務める紺野登氏と、『失敗の本質』『知識創造企業』などで知られる経営学者の野中郁次郎氏。歴史的事例や様々なイノベーション手法などの解説も豊富なため、じっくりと、揺るぎない構想力を身につけたい方にぜひご一読いただきたい。

著者:紺野 登(Konno Noboru)
 1954年生まれ。KIRO(知識イノベーション研究所)代表、多摩大学大学院教授(知識経営論)、博士(学術)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特別招聘教授、一般社団法人 Japan Innovation Network(JIN)及び一般社団法 人 FCAJ(Future Center Alliance Japan)代表理事。デザイン経営、知識経営、場の経営、イノベーション経営などの新たなコンセプトを広める。

著者:野中 郁次郎(Nonaka Ikujiro)
 1935年生まれ。一橋大学名誉教授。2016年1月より日本学士院会員。知識創造理論を世界に広めたナレッジ・マネジメントの権威。2002年紫綬褒章、2010年瑞宝中綬章を受章。2017年カリフォルニア大学バークレー校ハースビジネスクールより「Lifetime Achievement Award(生涯功労賞)」受賞。著書に『失敗の本質』『知識創造企業』『知的機動力の本質』ほか多数。

はじめに 思考のイノベーションの時代へ
第1章 構想力の危機
第2章 構想力とは何か
第3章 知識創造と目的工学
第4章 エコシステムのデザイン
第5章 歴史的構想力
第6章 日本の構想力

要約ダイジェスト

構想力とはなにか

 「構想する」とは、私たちが生きている現実から発しながらも、まだない世界をつくっていくことだ。これまでの人間の社会や歴史も、構想力が世界を形づくり、変えてきた。では、そもそも人間の構想力が世界を変えるとはどういうことか。

 例えば、数字の0(ゼロ)を発見したのは古代インド人とされているが、彼らは想像力を働かせることで、存在しないものを存在させた。それにより、位取りの発想が生まれ、これまで分数で表していたものを小数で表せるようになり、計算プロセスは圧倒的に便利になった。また、ゼロを基準とした正の数と負の数という発想が生まれ、負の数が数として認知されることで数の世界は革命的に拡張した。

 このように構想力は、単に頭や心に想い描くことではない。0(ゼロ)の発見でいえば、無を数として扱えないかという想起から、無に0(ゼロ)という形を与え、それを実際に使うことで数学の世界も現実の社会も変えていく、この一連のプロセスを生み出すことである。

 では、実践まで含む構想力とはどのような力(ケイパピリティ)だろうか。それは、想像力、主観力、実践力の融合(知性、感性、身体の三位一体)で生み出される力であり、構想力はこれらを磨くことで得られる、複雑な現代社会に不可欠な実践的智慧(フロネシス)なのだ。そしてそれは先天的なものではなく、むしろ経験、学習できる後天的なものである。

構想力を形成するプロセス

 構想力は、「目的界」(あるべき状態を想像すること)と「現実界」(今ここでの経験に基づく状況や課題の認識)の間に分け入り、両者を行き来しながら、そのギャップを埋めていく役割を担う。現実界で得られた感性と目的を考える悟性とを、身体知を動員しながら、構想力で綜合するのだ。それは、以下の3つのプロセスが同時並行していく実践である。

(1)構想をデザインするプロセス(知識創造理論)

 いま社会を変えるための構想は、既存の業界や制度の境界を超えた共創・協業によって実現されるものになっている。構想力とは、単にアイデアの創出にとどまらず、実践の仕組みや、社会的な関係性の構築まで含む、「知識創造」能力の発現なのだ。

 この協業型で社会に開かれた組織的・社会的プロセスはいわゆる SECIモデル(Socialization=共同化、Externalization=表出化、Combination=連結化、Internalization=内面化)と呼ばれる4つのプロセスのスパイラルアップとして示される。

①構想は共感から始まる=本質直観と相互主観性の形成(共同化)
 知識創造プロセスは、まず場に分け入って本質を知ること、「本質直観」が起点となる。ただ眺めるように観察しても本質はわからない。現場に立ち入って(行為を通じて)初めて、バイアスのない世界が「純粋経験」として自分の中に映し出される。

 例えば、JR東日本の「スイカ(Suica)」構想は、

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