- 本書の概要
- 著者プロフィール
著者の経歴は華やかだが、決して順風満帆だったわけではない。本書では著者の仕事やプライベートでの苦闘が失敗も含め語られているが、その過程で著者が重視してきたのは、他者への共感、そして自らの直感や感性を信じることだった。男性優位の企業社会において、いわゆる「女性的リーダーシップ」によって古い価値観にとらわれず道を切り拓いてきたのである。
「こうすべき」「こうしなければ」という思い込みを捨てることは容易ではないが、一読すれば自分がいかに固定概念に縛られているかに気づかされるはずだ。不確実な時代においては、実はこれまで女性的とされてきた資質が求められるのは性別を問わない。これからの時代の「働き方」や「リーダーシップ」を考えたい方はぜひご一読いただきたい。
イェール大学にて文学を専攻。卒業後に渡仏し、1985年よりロレアル・パリにてマーケティングの職に就く。アメリカへ帰国後は GAPに入社し、マーチャンダイザー(商品企画)の道に進んだ。系列ブランドのオールドネイビーの立ち上げにナンバー2として携わり伝説的な大成功をもたらしたのち、同じく系列ブランドのバナナ・リパブリックの社長に就任。2003年にシャネルに移り、COO兼アメリカ支社長を経て、同社初のグローバルCEOとなる。2016年に退任し、現在はリーダーシップに関する講演や執筆活動を行う傍ら、イェール大学理事と特別研究員、The New York Academy of Art理事、カナダグースとラグ&ボーン社外取締役を務める。
訳者:神崎 朗子(Kanzaki Akiko)
翻訳家。上智大学文学部英文学科卒。主な訳書に、ケリー・マクゴニガル『スタンフォードの自分を変える教室』、ジェニファー・L・スコット『フランス人は10着しか服を持たない』シリーズ、カレン・フェラン『申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。』(以上、大和書房)、アンジェラ・ダックワース『やり抜く力 GRIT(グリット)』(ダイヤモンド社)、マイケル・グレガー&ジーン・ストーン『食事のせいで、死なないために』(NHK出版)などがある。
第1章 息を吹き返す
第2章 新しい目で
第3章 チャンスに身を任せて
第4章 ロード・トレーニング
第5章 得意分野はどこに
第6章 微妙なライン
第7章 頭角を現す
第8章 リーダーへの道
第9章 すべてを手に入れる
第10章 直感は告げる
第11章 相反する要素の組み合わせ
第12章 コルセットを壊す
訳者あとがき
要約ダイジェスト
貼りついたラベルをはがす
私たちはつい、地位や肩書きや役割を、自分のアイデンティティと混同してしまう。ところがそれらは、思っているよりはるかに流動的なものだ。実は、周囲からの期待をはねのけることよりも、こうでなければならないという、自分自身の思い込みを捨てるほうが難しいのだ。
つねに変化していく“本当の自分”を受け入れるには、勇気がいるし、時間もかかる。私が心がけてきたのは、好奇心を持って物事をよく観察し、つねに心を開いていること。自分は何を愛しているのかを問い続けること。そして、自分は何をしようとしているのか、それはなぜなのかを、しっかりと考えること。それらが、多くの固定観念を乗り越えるのに役立ってきた。
いまは誰もが声高に「情熱に従いなさい」と叫んでいる。しかし、私の経験から言っても、自分の心の命じるままに人生を歩もうとすれば、その道のりは決して平坦にはいかないし、理屈で割り切れるものでもない。だから実際には、情熱というより、心の直感的なささやきに従うのだ。
私は美の探求に導かれるようにして中西部を飛び出し、新卒のときはロレアルの営業担当者としてフランス北部の田舎町に赴任、次に全盛期の GAPに転職してアメリカの西海岸に移り住み、やがてシャネルへとたどり着いた。仕事でこれほど成功するとは思っていなかったが、これは自分の直感と心の声に従って歩んできた結果にほかならない。さあ、貼りついたラベルをはがしていこう。
リーダーへの道
当時の GAPの CEO ミッキー・ドレクスラーは私の人生でもっとも大切な教訓——人の話に耳を傾け、しっかりと聞くこと——を与えてくれた。私がそれまでの人生でだいたい成功を収めてきたのは、期待に応える能力に長けていたからだ。相手が親でも、先生や上司でも、私は優秀だと思われたくて頑張った。それは自分の価値を認めさせ、頭角を現すための手段でもあり、優秀さをアピールする手段でもあった。
だが私は、そういう独りよがりな姿勢の「影」の部分に気づいていなかった。そのせいで自己防衛的になり、ほかの人たちの視点や経験を考慮できなくなっていたのだ。その後の数年で、私は自分の影の部分を客観的に見つめられるようになり、