- 本書の概要
- 著者プロフィール
著者の市来広一郎氏は、コンサルティング会社を経て地元熱海にUターン、熱海のまちづくりを行う企業を立ち上げた人物。民間から経済循環を生み出すことが、地域の持続的繁栄につながると著者は言う。具体的には、空き店舗のリノベーションなどを通して、クリエイティブな人々や行政を巻き込み、街のファンやプレイヤーを増やしていったのだ。
本書では、起業家としての著者の経験を失敗も含めて赤裸々に描きつつ、他地域でも応用できる「ビジネスによるまちづくり」の手法を解説。地域活性や行政にかかわる方はもちろん、自分の住む地域や出身地の衰退に心を痛めている方はぜひご一読いただきたい。熱海再生の事例には、多くのヒントと希望がつまっている。
株式会社 machimori代表取締役。NPO法人 atamista代表理事。一般社団法人熱海市観光協会理事。一般社団法人ジャパン・オンパク理事。一般社団法人日本まちやど協会理事。
1979年静岡県熱海市生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)大学院理学研究科(物理学)修了後、IBMビジネスコンサルティングサービス(現日本IBM)に勤務。2007年熱海にUターンし、ゼロから地域づくりに取り組み始める。遊休農地再生のための活動「チーム里庭」、地域資源を活用した体験交流プログラムを集めた「熱海温泉玉手箱(オンたま)」を熱海市観光協会、熱海市と協働で開始、プロデュース。2011年民間まちづくり会社 machimoriを設立、2012年カフェ「CAFE RoCA」、2015年ゲストハウス「guest house MARUYA」をオープンし運営。2013年より静岡県、熱海市などと協働でリノベーションスクール@熱海も開催している。2016年からは熱海市と協働で「ATAMI 2030会議」や、創業支援プログラム「99℃」なども企画運営。
第1章 廃墟のようになった熱海
第2章 民間からのまちづくりで熱海を再生しよう
第3章 まちづくりは「街のファンをつくること」から
第4章 街を再生するリノベーションまちづくり
第5章 一つのプロジェクトで変化は起き始める
第6章 街のファンはビジネスからも生まれる
第7章 事業が次々と生まれ育つ環境をつくる
第8章 ビジョンを描き「街」を変える
第9章 多様なプレイヤーがこれからの熱海をつくる
エピローグ 都市国家のように互いに繁栄を
要約ダイジェスト
まちづくりは 「街のファンをつくること」から
地元熱海に帰ってきてまずショックだったのは、「熱海には何もない」という言葉だった。これは誰か一人が言ったわけではなく、同様の言葉を地元の多くの人たちが口にしていたのだ。例えば、あるとき、熱海に観光で遊びに来たある女性が、観光協会に「何もないって、1日に3回も言われた」とクレームを伝えて帰ったという。
その女性は熱海に来て、まずお土産物屋さんで「どこかいいところはありませんか?」と聞いたという。するとお土産物屋さんは「何もないよ」。次に、タクシーでも同じことを聞いたら、「さあ、何もないねえ」。ガッカリして旅館に戻って聞いても、「何もないんですよねえ」。
もし、自分が熱海に旅人として来て、地元の人から、何もないことしか言われなかったら、二度と遊びに来ない。熱海の街は観光客を呼び込むことに必死だったが、地元の人たちのネガティブな熱海のイメージが変わらなければ、熱海の再生などあり得ない。私はまず、地元の人が地元を知ることが大事だと気づいた。
そこで、いくつかの活動を経て、地元の人が地元を楽しむツアーをやろうということになった。それが 2009年から始まった熱海温泉玉手箱、通称「オンたま」である。オンたまとは「地域の人がガイド役を務めるツアーを短期間に多数開催するイベント」だ。
観光というよりも、熱海やその周辺地域の人たちに地元の魅力を伝え、熱海のファンをつくり出そうということを目的とした。以来、