『軌道―福知山線脱線事故 JR西日本を変えた闘い』
(松本創/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 乗客と運転士107名が死亡、562人が重軽傷を負う惨事となった、2005年4月のJR福知山線脱線事故。本書は、被害者感情という私情を乗り越え、異例とも言える加害企業との共同検証を呼びかけた一人の遺族の 13年間の「軌道」を描いたノンフィクションだ。

 描かれるのは、利益と経営効率ばかりを優先し、「倫理」を犠牲にした企業の断末魔の姿。遺族と加害企業のトップという本来交わるはずのない二者が、安全や品質、技術屋としての矜持などを軸に連携し、「JR西日本」という巨大組織を変革していく様は、近年不正が次々と発覚する日本社会や製造業にも重い警鐘を鳴らす内容となっている。

 業界を問わず、企業倫理や組織風土、リスクマネジメントについて考える経営者やビジネスパーソンはぜひご一読いただきたい。この事故から学ぶべきことの多さに驚かされるはずだ。著者は新聞記者を経て、政治・行政、都市文化などをテーマに執筆を続けるルポライターで、著者『誰が「橋下徹」をつくったか―大阪都構想とメディアの迷走』で 2016年度日本ジャーナリスト会議賞を受賞。

著者:松本 創(Matsumoto Hajimu)
 ノンフィクションライター。1970年、大阪府生まれ。神戸新聞記者を経て、現在はフリーランスのライター。関西を拠点に、政治・行政、都市や文化などをテーマに取材し、人物ルポやインタビュー、コラムなどを執筆している。著書に『誰が「橋下徹」をつくったか——大阪都構想とメディアの迷走』(140B、2016年度日本ジャーナリスト会議賞受賞)、『日本人のひたむきな生き方』(講談社)、『ふたつの震災——[1・17]の神戸から[3・11]の東北へ』(西岡研介との共著、講談社)などがある。
プロローグ 11年の現場から 2016・4・25
第1部 事故が奪ったもの
 第1章 喪失
 第2章 連帯
 第3章 追及
第2部 組織風土とは何か
 第4章 独裁
 第5章 混迷
 第6章 激動
第3部 安全をめぐる闘い
 第7章 対話
 第8章 軌道
エピローグ 一人の遺族として
あとがき
「JR西日本と福知山線脱線事故」年表
引用・参考文献

要約ダイジェスト

JR福知山線脱線事故と遺族の社会的責務

 2005年4月25日、兵庫県尼崎市で JR福知山線脱線事故が起こった。事故による死亡者数は 107人(乗客 106名及び運転士)、負傷者は 562人。1987年4月の国鉄分割・民営化、JR発足以降で最悪の事故で、戦後の鉄道事故でも4番目に犠牲者が多い巨大惨事だ。

 本書は、この事故で妻と妹を失い、次女が瀕死の重傷を負わされた淺野弥三一という一人の遺族の立場から、福知山線脱線事故という不条理を見つめ、その後の彼の闘いを取材し記録したものだ。

 国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の報告書では、運転士が事故直前の宝塚駅や伊丹駅でミスを繰り返したことに、「日勤教育」と呼ばれる懲罰的な人事管理や再教育など、JR西日本の企業体質の関与が考えられると指摘している。しかし結局のところ認定したのは、「運転士のブレーキ遅れ」、つまり個人の注意散漫ミスという直接原因にとどまった。

 「事故調査委員会の報告が結論付けた「運転士のブレーキ遅れ」等は事故の原因ではなく結果だ。国鉄民営化から18年間の経営手法と、それによって形成された組織の欠陥が招いた必然だ」。都市計画コンサルタントの淺野は、このような視点から JR西に粘り強く働きかけ、対話の回路を開いた。そして「官僚組織以上に官僚的」と言われた巨大企業を動かし、事故原因の究明と説明、組織と安全体制の変革を求めた。

 事故後にJR西が初めて開いた遺族向け説明会で、淺野は記者の質問にこう答えている。「事故を教訓とするため、JR西日本は自分たちが起こした事故に本気で向き合い、原因を検証しなければならない。そして、その結果を遺族・被害者にきちんと説明する責任がある。それを求めていくことが、われわれ遺族の使命、社会的責務だと思う」。

 何の落ち度もなく一方的に家族を奪われ、絶望のどん底でもがき続ける者に「社会的責務」など生じるのだろうか。そう思いながらも、淺野は自ら発したその言葉によって、

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