- 本書の概要
- 著者プロフィール
本書では、東ロボくん開発における試行錯誤、人工知能をめぐる従来の議論や最先端のAI研究事例を整理しつつ、AIができること、できないことを明らかにする。同プロジェクトからの成果の一つは、AIにとって、意味の理解を伴う読解はハードルが高いことがわかったことだ。だがそれは、AIが得意な知識検索や計算能力しかなく、読解力のない労働者は失業するしかないことも意味する。
AIの登場によって世界で起ころうとしている労働市場の変化とはどういうものか、人間がAIに負けないために必要な能力やスキルは何か、それを身につけるために子どもたちや若い世代にどのような教育が必要となるのか——、AIの先行きに不安を感じるビジネスパーソンにとって、本書はAI社会の現実を知るための格好の入門書となるだろう。
国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長。一般社団法人「教育のための科学研究所」代表理事・所長。東京都出身。一橋大学法学部およびイリノイ大学数学科卒業、イリノイ大学5年一貫制大学院数学研究科単位取得退学(ABD)。東京工業大学より博士(理学)を取得。専門は数理論理学。2011年より人工知能プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトディレクタを務める。2016年より読解力を診断する「リーディングスキルテスト」の研究開発を主導。主著に『ハッピーになれる算数』『生き抜くための数学入門』(イースト・プレス)、『数学は言葉』(東京図書)、『コンピュータが仕事を奪う』(日本経済新聞出版社)など。
第1章 MARCHに合格——AIはライバル
第2章 桜散る——シンギュラリティはSF
第3章 教科書が読めない——全国読解力調査
第4章 最悪のシナリオ
おわりに
要約ダイジェスト
人間の仕事の多くが大学合格レベルのAIに代替される
AIや AIを搭載したロボットが人間の仕事をすべて肩代わりするという未来はやって来ない。それは、数学者なら誰にでもわかるはずのことだ。AIがコンピューター上で実現されるソフトウェアである限り、人間の知的活動のすべてが数式で表現できなければ、AIが人間に取って代わることはない。だが今の数学にはその能力はない。それはコンピューターの速さやアルゴリズムの問題ではなく、数学の限界なのだ。
また昨今、AIに関して一番関心を集めている言葉はシンギュラリティ(singularity)だろう。技術的特異点と訳されるこの言葉は、AIが人間の力を借りずに自身よりも能力の高いAIを作り出すようになる地点を指す。その理由は後述するが、私は数学者として、「シンギュラリティは来ない」と断言できる。
ただし、人間の仕事の多くが AIに代替される社会はすぐそこに迫っている。私は2011年に「ロボットは東大に入れるか」という AIプロジェクト(東ロボくん)を始めた。目的は東大に合格するロボットを作ることでなく、AIに何ができるようになり、何ができないのかを解明することだった。そうすれば、AI時代が到来した後、失業しないために人間はどんな能力を持たなければならないかが明らかになる。
7年が経過し、「東ロボくん」の偏差値は 57.1まで上昇し、MARCHや関関同立などの有名私大の合格圏に入った。さらなる開発の結果、東ロボくんは、数学では東大模試(理系)で6問中4問に完答し、偏差値 76.2という驚異的な成績を収めた。しかし手放しで喜ぶことはできない。これは、AIが人々の仕事を奪うという予想が現実のものになることを意味するからだ。
オックスフォード大学の研究チームが AI化によって「10~20年後になくなる仕事」を予測した。注目すべきは、