『チャヴ 弱者を敵視する社会』
(オーウェン・ジョーンズ/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 イギリスのマスコミでは、サッカー選手のデイビッド・ベッカムや歌手のシェリル・コールら労働者階級出身の著名人が、「チャヴ(労働者階級を侮蔑する言葉)」とくり返し馬鹿にされているという。1979年のサッチャー政権の誕生から、トニー・ブレアなどニュー・レイバー(「新しい労働党」を目指す労働党の一派)時代を経て現在に至るまで、労働者階級への敵視と攻撃が広がり続けているのだ。

 弱者を切り捨て、富裕層を優遇する新自由主義的な政策は、社会をどのように分断し、破壊していったのか?本書は、このような差別に怒る二十代の若者が、 労働者階級の歴史と生活を綿密に取材、現代イギリスに蔓延る不公正な階級社会と中流階級エリートによる政治支配を暴いたノンフィクションだ。著者は処女作である本書上梓後、現在は英ガーディアン紙でコラムを執筆し、若き論客としてテレビやラジオでも活躍する人物。

 刊行後たちまちベストセラーとなった本書は、時の政権や各国の政治運動に影響を与え、ニューヨークタイムズ紙ノンフィクション部門トップ 10にも選ばれた。イギリスがたどった道は、日本がこれから歩む道とも言われる。貧困と社会格差、ヘイトクライムなど日本でも語られるテーマの課題、その先にある私たちの社会の未来を真剣に考えたい読者にとっては必読の書だ。

著者:オーウェン・ジョーンズ(Owen Jones)
 イギリスのシェフィールド生まれ。オックスフォード大学卒(歴史学専攻)。20代で初の著書である本書を上梓。たちまち世界的ベストセラーとなり、各国の政治運動のあり方に一石を投じた。本書はまた、ニューヨーク・タイムズ紙の「2011年の本トップ10」に選ばれ、2013年には「ポリティカル・ブック・アワード」の「ヤング・ライター・オブ・ザ・イヤー」も獲得した。現在は、ガーディアン紙などでコラムを執筆。テレビやラジオでも活躍中。いま世界が注目する若き論客である。その他の著書に『The Establishment』(2018年海と月社刊)がある。

依田卓巳(Yoda Takumi)
 翻訳家。訳書に『人を魅了する』『日本人の知らないHONDA』(ともに海と月社)、『国際協調の先駆者たち』(NTT出版)、『アテンション』(飛鳥新社)、『マイクロソフトを辞めて、オフィスのない会社で働いてみた』(新潮社)など多数。

はじめに
1 シャノン・マシューズの奇妙な事件
2 「上から」の階級闘争
3 「政治家」対「チャヴ」
4 さらしものにされた階級
5 「いまやわれわれはみな中流階級」
6 作られた社会
7 「ブロークン・ブリテン」の本当の顔
8 「移民嫌悪」という反動
結論 「新しい」階級政治へ

要約ダイジェスト

「チャヴ」とイギリスの労働者階級

 現代イギリスでは、なぜ中流階級による労働者階級への憎悪がこれほど社会に広がったのだろうか。本書の狙いは、この憎悪の原因を明らかにし、「チャヴ」という戯画的なイメージの陰で見えなくされた労働者階級の実態を示すことにある。

 チャヴとは、労働者階級を侮蔑する差別語で、ロマ民族の言葉で子供を指す「チャヴィ」から来ている。「カジュアルなスポーツウェアを着た労働者階級の若者」と定義され、よく耳にするデマは「公営住宅に住んで暴力的(Council Housed And Violent)」の頭文字というものだ。

 この言葉には、暴力、怠惰、十代での妊娠、人種差別、アルコール依存などあらゆるネガティブな特徴が含まれ、チャヴ・ヘイトは新聞やテレビ、映画、インターネット、SNS、日常会話にも平然と現れるようになった。

 2008年2月、北部の工業地帯の貧しい団地で育った幼い少女シャノン・マシューズが失踪する事件が起こった。シャノンは生きて発見されたのだが、その後、取材費や報奨金を手に入れるために自分の娘を誘拐した容疑で母親カレン・マシューズが逮捕された。

 非難の的となったのは、母親と彼女に象徴される「階級」だった。メディアは「チャヴ」のレッテルを貼ることで労働者階級のゆがんだイメージを報道し、保守党は事件を生活保護費削減など福祉国家的な政策の見直しに利用した。この事件は、イギリス社会に蔓延する偏見をあらわにしたが、庶民とかけ離れた生活を送る中流階級のジャーナリストも政治家も、労働者階級のコミュニティの本当の問題を明らかにしようとはしなかった。

 その偏見の根本にあるのは、1979年、首相に就任したマーガレット・サッチャーによる労働者階級への攻撃の開始だ。サッチャリズムは、

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