『ベーシックインカムへの道―正義・自由・安全の社会インフラを実現させるには』(ガイ・スタンディング/著)

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  • 著者プロフィール
  • 目次
 経済のグローバル化と新自由主義の拡大、IotやAIなどテクノロジーの進化により、社会の中で大きな不平等と不正義が生まれている。こうした状況の下、特に2007~08年の世界金融恐慌をきっかけに、旧来の社会保障に代わる「ベーシックインカム(BI)」への関心が高まっている。BIとは、個人に対して、無条件に、定期的に、少額の現金を配る制度のことで、2016年には導入の是非をめぐり行われたスイスの国民投票も記憶に新しい。

 本書は、啓蒙団体BIEN(Basic Income Earth Networks)の共同名誉理事長で、筋金入りの「推進派」を自任する経済学者による概説書であり、平明な文章で BIの基礎知識を解説する。前半では、この社会配当制度をめぐる歴史と理論的根拠を明快に整理。後半では、反対意見も紹介しつつ、財源面での実現可能性、労働力供給への影響、導入の上での実務的・政治的課題などを、実証的データの分析によって検証している。

 一読すれば、20世紀型の福祉制度や所得配分システムが崩壊している深刻な現実に気づかされるはずだ。日本社会でも、貧困や格差の問題はもはや無視できない。社会課題の解決に関心のあるビジネスパーソンにとっては必読の書と言えるだろう。

著者:ガイ・スタンディング(Guy Standing)
 経済学者。ベーシックインカムの啓蒙団体、BIEN(Basic Income EarthNetwork) の共同創設者、現共同名誉理事長。イリノイ大学にて労働経済学・労使関係論にて修士、ケンブリッジ大学にて経済学博士号取得。国際労働機関(ILO)エコノミスト、バース大学教授、ロンドン大学アジア・アフリカ研究学院(SOAS)開発学教授などを歴任。著書に『プレカリアート~不平等社会が生み出す危険な階級』など。ベーシックインカム賛成派を代表する論客。

翻訳:池村千秋
 翻訳者。『ワーク・シフト』(プレジデント社)、『LIFE SHIFT』(東洋経済新報社)、『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版)、『マネジャーの実像』(日経BP社)など訳書多数。

第1章 ベーシックインカムの起源
第2章 社会正義の手段
第3章 ベーシックインカムと自由
第4章 貧困、不平等、不安定の緩和
第5章 経済的議論
第6章 よくある批判
第7章 財源の問題
第8章 仕事と労働への影響
第9章 ベーシックインカム以外の選択肢
第10章 ベーシックインカムと開発
第11章 推進運動と試験プロジェクト
第12章 政治的課題と実現への道

要約ダイジェスト

政治的な必須課題

 昨今、ベーシックィンカムへの関心が高まっている一因は、現在の経済政策と社会政策の下で、持続不可能な規模の不平等と不正義が生まれているという認識にある。猛烈なグローバル化が進み、いわゆる「新自由主義」の経済が浸透し、テクノロジーの進化により労働市場が根本から様変わりするなかで、20世紀型の所得分配の仕組みは破綻してしまった。

「プレカリアート」と呼ばれる人たちの増加は、その一つの結果だ。プレカリアートとは、雇用が不安定で、職業上のアイデンティティを持てず、実質賃金が減少もしくは不安定化していて、福祉を削減され、つねに債務を抱えているような人たちを指す言葉である。

 そして、ごく一握りの「不労所得生活者(ランティエ)」(物的資産や金融資産、知的財産などの資産が生み出す利益により、豊かな暮らしを謳歌する人たち)の所得の集中が加速している。このような状態は、道義的にも経済的にも正当化できるものではなく、不安、無関心、疎外、怒りが混ざり合う結果、社会は最悪の危機に飲み込まれつつある。ポピュリスト(大衆迎合主義者)の政治家たちが人々の不安を煽り、支持を広げやすい環境が生まれているのだ。

 2016年にイギリスの国民投票で EU離脱(ブレグジット)が選択され、アメリカ大統領選でドナルド・トランプが当選した底流にあるのは、そうした社会の右傾化だった。このような潮流に抗し、より平等で自由な社会を築くためには、ペーシックィンカムの導入が政治的な必須課題だとわたしは考えている。

社会正義の手段

 ベーシックインカムとは、一言で言えば、個人に対して、無条件に、定期的に(たとえば毎月など)、少額の現金を配る制度のことだ。ベーシックインカムを導入すべき理由として、自由の確保と経済的な安全の提供も重要だが、最も重要なのは社会正義の実現だと、わたしは考えている。だが残念ながら、ベーシックインカム論議の多くは、既存の社会的保謹制度の代替案としての妥当性を問うものに終始している。

 社会の共有財産は、土地やその他の有形資産だけではない。金融資産やいわゆる「知的財産」など、目に見えない資産もある。例えば、知的財産の場合は、国家がさまざまな法規制を設けている結果として、

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