- 本書の概要
- 著者プロフィール
特に「ラーニング」は、第二次世界大戦後の日本の急速な経済発展の大きな要因とも言えるという。著者らは、自由な市場経済への盲信をやめ、ラーニングによって生産性を向上させ続ける社会、すなわちラーニング・ソサイエティを目指すことこそが、先進国での格差拡大を食い止め、発展途上国の確実な経済発展をも実現するカギとなることを様々なデータにより解き明かしていく。
本書では、企業におけるラーニングやイノベーション、国家の産業政策や個人・企業・国家の教育制度、知的財産権、北欧モデル、日本社会への提言など、様々な分野にわたり、具体的に新たな社会構造への道筋が示されている。政治経済、教育などへの提言書としてはもちろん、企業経営や日本の将来を考えるうえでも多くの示唆がある一冊だ。
コロンビア大学教授。世界銀行の元チーフ・エコノミスト兼上級副総裁。クリントン政権では経済諮問委員会委員長を務めた。主な著書に、『世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す』『世界の99%を貧困にする経済』『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』『フェアトレード―格差を生まない経済システム』(共著)などがある。2001年にノーベル経済学賞受賞。
著者:ブルース・C・グリーンウォルド(Bruce C. Greenwald)
コロンビア大学ビジネススクール教授。グラハム・ドッド投資ヘイルブルンセンター長も務める。主な著書に『バリュー投資入門―バフェットを超える割安株選びの極意』(共著)、『競争戦略の謎を解く』(共著)、『新しい金融論―信用と情報の経済学』(ジョセフ・E・スティグリッツとの共著)、Globalization: The Irrational Fear That Someone in China Will Take Your Job (共著)などがある。
監訳:藪下史郎(Yabushita Shiro)
早稲田大学政治経済学術院名誉教授。イェール大学Ph.D.取得後、東京都立大学(現・首都大学東京)、横浜国立大学を経て、1991年から早稲田大学政治経済学部教授、2014年3月退職。専門は応用マクロ経済学、金融論。イェール大学大学院在籍時にジェームズ・トービン、ジョセフ・E・スティグリッツらに師事。主な著書に『金融システムと情報の理論』(東京大学出版会)、『金融論』(ミネルヴァ書房)、『スティグリッツの経済学―「見えざる手」など存在しない』(東洋経済新報社)などがある。
翻訳:岩本千晴(イワモト チハル(Iwamoto Chiharu)
関東学園大学経済学部経済学科専任講師。翻訳者。ボストン大学経済学修士、中央大学総合政策研究科博士後期課程修了。博士(総合政策)。主な訳書に『ハウス・オブ・デット』(東洋経済新報社)、『議会の進化――立憲的民主統治の完成へ』(共訳、勁草書房)がある。
第Ⅰ部 成長・開発・社会発展の新しいアプローチ:基本概念と分析
第1章 ラーニング革命
第2章 ラーニングの重要性について
第3章 ラーニング・エコノミー
第4章 ラーニングを促進する企業とラーニングを促進する環境の構築
第5章 市場構造・厚生・ラーニング
第6章 シュンペーター的競争の厚生経済学
第7章 閉鎖経済におけるラーニング
第8章 幼稚産業保護論:ラーニングを促進する環境での貿易政策
第Ⅱ部 ラーニング・ソサイエティに向けた政策
第9章 ラーニング・ソサイエティ構築における産業貿易政策の役割
第10章 金融政策とラーニング・ソサイエティの構築
第11章 ラーニング・ソサイエティのためのマクロ経済政策と投資政策
第12章 知的所有権
第13章 社会変革とラーニング・ソサイエティの構築
第14章 あとがき
索引、参考文献
要約ダイジェスト
成長・開発・社会発展の新しいアプローチ
明治維新以来の日本の歴史は、まさにラーニング(どのようにして生産性を向上させるかに関する学習)とイノベーションの歴史だった。長い間の鎖国の後、日本は学ぶべきことが多くあることに気づき、先進国との知識ギャップを縮める努力をしてきたのだ。第二次世界大戦後はさらに熱心に取り組み、世界第2位の経済大国になった。
アジアのほかの国々は、日本の成長戦略を手本として、そのやり方を採用したが、その成長戦略の中心は、他の国の戦略とは異なるものだった。世界銀行や国際通貨基金(IMF)の助言で、後にワシントンコンセンサスと呼ばれるようになるアドバイスに従った他の国は、静学的な効率的資源配分のみに重点を置いてきた。
この考え方は、経済の成功に必要なことは、自由で制約のない市場であり、政府の最善の策は何もしないことである、という単純なイデオロギーに基づいていた。そして日本のやり方は成功したが、残念ながら、ほぼ例外なくワシントンコンセンサス政策は失敗した。
日本の成長には2つの重要な教訓が含まれている。第1は、いかなる経済、いかなる社会においても、