『「学習する組織」入門 — 自分・チーム・会社が変わる 持続的成長の技術と実践』
(小田理一郎/著)

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 技術革新やグローバル化の進展などにより、企業を取り巻く環境の変化は激しさを増している。そうした時代における組織開発理論として近年注目を集めているのが、ピーター・センゲ氏が提唱した「学習する組織」だ。学習する組織とは、集団としての意識と能力を自発的・継続的に高め続ける組織のことで、特定のメンバーに頼るのではなく、組織として高いパフォーマンスを上げることを目指すため、環境の変化にも適応しやすい。

 ただし、ピーター・センゲ氏の著した同理論の基本書ともいえる『学習する組織』は600ページを超える大著であり、思想的な奥深さからも初学者には少々解りづらいのも確かである。本書は、同著の訳者・小田理一郎氏が、そんな「学習する組織」をつくるための原則やプロセス、ツールについて、かみ砕いて解説した一冊だ。

 学習する組織を支えるのは、「志を育成する力」「複雑性を理解する力」「共創的に対話する力」という3つの力と5つの「ディシプリン(実践のための理論・手法)」である。そして、関連し合うこれの要素を統合的に伸ばすことが、組織の目的や使命を達成するためのポイントとなる。本書では各ディシプリンを組織に装着するためのプロセスが具体的に示され、実践のための強い味方となるはずだ。組織を今よりも強くしたいと願うリーダー層はもちろん、新たに組織を立上げようとする方もぜひご一読いただきたい。

著者:小田 理一郎(Oda Riichiro)
 チェンジ・エージェント代表取締役。オレゴン大学経営学修士(MBA)修了。多国籍企業経営を専攻し、米国企業で10 年間、製品責任者・経営企画室長として組織横断での業務改革・組織変革に取り組む。2005年チェンジ・エージェント社を設立、人財・組織開発、CSR経営などのコンサルティングに従事し、システム横断で社会課題を解決するプロセスデザインやファシリテーションを展開。デニス・メドウズ、ピーター・センゲ、アダム・カヘンら第一人者たちの薫陶を受け、組織学習協会(SoL) ジャパン理事長、グローバルSoL理事などを務め、システム思考、ダイアログ、「学習する組織」などの普及推進を図っている。
 ドネラ・メドウズ著『世界はシステムで動く』(英治出版)の日本語版解説を担当。共著書に『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』『もっと使いこなす! 「システム思考」教本』(東洋経済新報社)など、共訳書にピーター・M・センゲ著『学習する組織』、ビル・トルバート著『行動探求』(以上英治出版)、ジョン・D・スターマン著『システム思考』(東洋経済新報社)、監訳書にアダム・カヘン著『社会変革のシナリオ・プランニング』(英治出版)。
第1章 学習する組織とは何か
第2章 組織の学習能力——学習サイクルと学習環境、そしてディシプリン
第3章 自己マスタリー——自分の意識と能力を高め続ける
第4章 システム思考——全体像をとらえ、本質を見出す
第5章 メンタル・モデル——前提を問い、認識を新たにする
第6章 チーム学習——場と関係性の質を高める
第7章 共有ビジョン——「どうありたいのか」に答える
第8章 実践上の課題と対策
第9章 組織の未来、リーダーシップの未来

要約ダイジェスト

学習する組織とは何か

 米国の大手自動車メーカーA社は、1990年代に深刻な危機にさらされていた。A社の何十年も続いた主力製品のシェアが奪われ始めたのだ。この危機に、社運をかけた新車開発プロジェクトが立ち上がり、役員のひとりが目をつけたのが、「学習する組織」である。

 まず陣頭指揮をとる8人の役員が集まり、それぞれがどのような想いやビジョンを持つかを語り合い、チームとしての「共有ビジョン」を築いた。また、この自動車メーカーでは、それまで期限通りに開発できることがほとんどなく、開発の遅れの背景には、組織的な問題があった。外部ファシリテーターが、役員間のすれ違いをセッションの中で取り上げ、後述する「メンタル・モデル」の考え方にもとづき、互いを信頼しオープンに話し合えるような能力と風土を築き上げていった。

 役員たちは、なぜパーツの開発が現場の努力にもかかわらず遅れるのかについて、「システム思考」によって全体像を俯瞰し、対話を始めた。ふと財務担当のCさんが、なぜ現場は遅延が判明してから直ちに遅延報告書を書かないのかと質問し、その問いを起点に、

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