『欲望の資本主義―ル―ルが変わる時』
(丸山俊一+NHK「欲望の資本主義」制作班/著)

  • 本書の概要
  • 著者プロフィール
  • 目次
 リーマンショックや英国のEU離脱、マイナス金利、トランプショックなど、世界経済には衝撃的な出来事が続いており、資本主義の限界が来ているのではないかという指摘も増えている。本書は、そうした世相を反映し、安田洋祐・大阪大学大学院准教授が、経済学やビジネスのトップランナーたちと「欲望」をキーワードに深い対談を試みた NHKのドキュメンタリー番組『欲望の資本主義~ルールが変わる時』を書籍化したものだ。

 本書に収録されているのは、今も不平等と闘い続けるノーベル経済学賞受賞者 ジョセフ・E・スティグリッツ氏、異端の経済思想家 トーマス・セドラチェク氏、テクノロジーの可能性を信じるベンチャー・キャピタリストのスコット・スタンフォード氏の3名との対談。“近代経済学の父”アダム・スミスを否定するスティグリッツ氏をはじめ、それぞれ経済学の教科書には見られないような刺激的な見解が披露されている。

 安田氏は、読者一人ひとりが多様な考え方を知り、本質的に考えるためのヒントを得ることを狙いとしてナビゲーターを務めたという。新古典派経済学を主流とする現代の経済学では、近年の経済問題には対処できず、誰も正しい答えがわからない状況にあるからだ。そのため難しい用語や理論を使わず平易に理解できる内容ながら、政治経済やビジネス、テクノロジーから国家観まで幅広く考えさせられる内容となっている。経済に対する新たな視点を手に入れたい方はぜひご一読いただきたい。

著者:丸山 俊一(Maruyama Shunichi)
 NHKエンタープライズ制作本部番組開発エグゼクティブ・プロデューサー。1962年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後NHK入局。「英語でしゃべらナイト」「爆問学問」「ソクラテスの人事」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」などを企画開発、現在も「ニッポンのジレンマ」他、数多くの異色教養番組をプロデュースし続ける。早稲田大学、東京藝術大学で講師を兼務。著書に『すべての仕事は「肯定」から始まる』(大和書房)他。

著者:NHK「欲望の資本主義」制作班

ナビゲーター:安田 洋祐(Yasuda Yosuke)
 大阪大学大学院経済学研究科准教授。1980年東京都生まれ。2002年東京大学経済学部卒業。2007年プリンストン大学より Ph.D.取得(経済学)。政策研究大学院大学助教授を経て、2014年4月から現職。専門は戦略的な状況を分析するゲーム理論。主な研究テーマは、現実の市場や制度を設計するマーケットデザイン。編著に『改訂版 経済学で出る数学 高校数学からきちんと攻める』(日本評論社)『学校選択制のデザイン ゲーム理論アプローチ』(NTT出版)。

第1章 「アダム・スミスは間違っていた」——“近代”経済学の巨人・スティグリッツ
第2章 「資本主義は成長がマストではない」——異端の奇才・セドラチェク
第3章 「資本主義は完璧じゃない。労働のない社会が来る」——未来をクールに見る投資家・スタンフォード
特別対談 「成長資本主義が世界の不安定化を招いている。GDP至上主義と決別せよ!」——セドラチェク×小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)

要約ダイジェスト

“近代”経済学の巨人・スティグリッツ

 現在、多くの国々が低成長に悩まされているが、私はアメリカやヨーロッパをはじめ各国が、緊縮財政から適切な財政出動に経済政策を転換すれば、安定した成長を取り戻すことができると考えている。低成長は必然ではなく、経済と政治の相互作用の結果だ。不平等の是正やインフラの整備、構造の転換に取り組んだり、新しいテクノロジーを生み出し続けたりするためには、政府の支出が必要なのだ。

 では、そもそも経済は成長し続けるべきか。すでに明らかになっているが、天然資源を際限なしに消費し、二酸化炭素を大量に排出するような、物質至上主義の経済に持続性はない。しかし、所得の増加の見込みがない状況下でも、力強く、活力のある経済は保てる。新しいアイデアやイノベーションを生み出し、新たな娯楽や環境保護につなげることは可能である。

 ただし、現在の市場経済は歪んでいる。銀行を救済すること、損失を社会に転嫁すること、

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