- 本書の概要
- 著者プロフィール
国有地払い下げ問題でかいま見えたように、公共資産がどのように運用され、保有・売却が決定されているのかは、国民の目からはほぼ見えない。著者らによれば、ほとんどの国は公共資産の包括的な台帳を持っておらず、所有資産や市場価値を説明できないレベルにあり、こうした隠れ資産をうまく活用できれば、債務削減と経済成長の両立が可能になる。
本書では具体的に、政府保有資産の運用を政府とは独立した専門家に任せる仕組み(ナショナル・ウェルス・ファンド)を提示し、透明性の高い公共資産ガバナンスのあり方を示す。著者の一人、ダグ・デッター氏はスウェーデン政府の持ち株会社社長、産業省ディレクターとして、公共資産改革で指導的役割を果たした専門家。『エコノミスト』『フィナンシャル・タイムズ』両誌で「ベスト経済書」に選ばれた本書は、日本の将来を考えるうえでも必読と言えるだろう。
ヨーロッパとアジアの投資家のアドバイザーとして活躍し、高い潜在力を持ちながら十分に活用されていない資産の確認を専門分野にしている。スウェーデン政府の持ち株会社スタットゥムの社長ならびに産業省のディレクターとして、スウェーデンが初めて本格的に取り組んだ公共部門の商業資産の変革で指導的役割を果たした。投資銀行家として手広く活動するほか、アジアとヨーロッパの企業の不動産部門や金融部門で顧問を務める。
ステファン・フォルスター(Stefan Folster)
斬新な改革を専門とするストックホルムのシンクタンク、リフォーム・インスティテュートのマネージング・ディレクター。スウェーデン王立工科大学の経済学准教授。以前はスウェーデン企業同盟のチーフエコノミストを務めた。執筆した記事や著書は多数。最近では、Renaissance for Reforms <改革のためのルネサンス>がIEA/Timbroより出版。
小坂 恵理(コサカ エリ)
翻訳家。慶應義塾大学文学部英米文学科卒業。訳書にセガール『貨幣の「新」世界史』、ステイル『ブレトンウッズの闘い』、カリアー『ノーベル経済学賞の40年』(上・下)、パラシオス=ウエルタ『経済学者、未来を語る』、フェルプス『なぜ近代は繁栄したのか』ほか多数。
第2章 恩を仇で返すな:おそまつなガバナンスのコスト
第3章 公共企業体のおそまつなガバナンスは経済や政治を崩壊させる
第4章 パブリック・ウェルスの規模と可能性
第5章 政治家は金儲けに走らず、消費者を擁護しなければならない
第6章 パブリック・ウェルスのガバナンス改革に取り組んだパイオニアたち
第7章 スウェーデンのパイオニアたち:積極的なガバナンスから「放任の」ガバナンスへの変遷
第8章 「政府が株主でも」独立性の高いガバナンス:シンガポールのイノベーター
第9章 貨幣価値への換算は民主主義の発達と産出高の改善につながる
第10章 ナショナル・ウェルス・ファンドへ
第11章 価値を創造するための戦略
第12章 未来のナショナル・ウェルス・ファンドへの教訓
第13章 誰もがいま道路を建設したがるが、その余裕はあるのだろうか
第14章 腐敗を脱し、公益のためのガバナンスへ
参考文献
要約ダイジェスト
パブリック・ウェルスの可能性
日本の公的債務は GDPの 200%を上回り、OECD加盟諸国の平均の 2倍以上だ。しかも高齢化社会、低インフレ、増税への強硬な反対が障害となり、解決への糸口は見えない。しかし、国民の目から隠されているが、大半の国の政府は驚くほどたくさんの資産を所有している。これらの資産を構成するのは国営産業の遺産で、