- 本書の概要
- 著者プロフィール
米『フォーブス』誌による世界長者番付にも登場し、約7,000億円(2016年8月時点)の資産を持つ台湾で随一の富豪だが、私生活では質素を好み、信心深い一面を持つ。だが一日に16時間働くと公言するハードワーカーでもあり、部下にもそれを強要する完全なトップダウン式の経営で知られている。
本書は秘密主義で知られる郭台銘とホンハイグループの素顔に迫った一冊だ。その半生から創業期の苦労、また現在のホンハイが抱える諸問題を徹底した調査で露わにし、自殺者を出した子会社の富士康科技集団(フォックスコン)中国工場事件とその対応、以前買収された企業への取材などから、郭台銘の「野心」が立体的に明らかにされている。
一読すれば、郭台銘の行動原理や、技術流出や雇用維持が懸念されるシャープの今後が、おのずと見えてくるはずだ。今回のような買収劇は多くの日系メーカーにとっても他人事ではなく、戦う相手を見極める意味でもぜひご一読いただきたい。著者は中華圏の社会・文化・政治経済に精通するルポライター、多摩大学非常勤講師。
1982年滋賀県生まれ。ルポライター、多摩大学経営情報学部非常勤講師。立命館大学文学部卒業後、広島大学大学院文学研究科修了。在学中、中国広東省の深セン大学に交換留学。一般企業勤務を経た後、著述業に。アジア、特に中華圏の社会・政治・文化事情について、雑誌記事や書籍の執筆を行っている。著書に『和僑』『境界の民』(角川書店)など多数、編訳に『「暗黒・中国」からの脱出』(文春新書)がある。
第1章 シャープ買収にこだわった鴻海の懐事情
第2章 自殺者続出、フォックスコン工場の実態
第3章 鴻海は中国企業なのか
第4章 郭台銘の原点、貧困の時代
第5章 倒産寸前から急成長の謎
第6章 巨大企業の「皇帝」の懊悩
第7章 信仰への熱中、強烈な家族愛
第8章 シャープへの求愛
おわりに
参考文献
要約ダイジェスト
乗っ取られたシャープ
怖い。しかし目が離せない。彼が姿を現した瞬間、会場にいた全員がそう感じたはずだ。鴻海科技集団総裁、テリー・ゴウ。中国名を郭台銘。買収契約の調印相手であるシャープ社長の高橋興三と、鴻海の副総裁・戴正呉(いずれも肩書は当時)を伴っていたが、場の中心は明らかにこの男だ。
パープルのネクタイにダークグレーのスーツ。65歳という年齢にもかかわらず、